芝山 それと、やはりキャメラの宮川一夫ですね。黒澤さんは横移動の際に、スピード感やダイナミズムを作り出すのがうまい。次の『白痴』も面白いと思うんですよ。
小林 まず、森雅之のムイシュキンがいいんです。
芝山 『白痴』は名画座で観たころ、仲間の学生の間ではずいぶん評判の悪い映画だったんです。こんなに面白いのを、なんでみんな悪く言うんだろうと思ってました。
小林 また久我美子がいいんですよ。当時の彼女は堀北真希そっくりで(笑)。
芝山 それに、原節子がやたらに目を剥いて、批評家にずいぶん貶(けな)されたらしいですけど、あれだけ柄が大きくて、物狂いの感じを出せるのはやっぱり稀有な人だと思います。しかも、小津の『麦秋』と同じ公開年なんですよね。
小林 しかし、『生きる』と『七人の侍』を続けて作ってるっていうのはすごいなあ。
芝山 ほんとに。黒澤明って、いわゆる早熟型とか晩成型とかで分類すると、実はものすごい早熟というわけでもないし、晩年になって枯れていい作品を作ってるわけでもない。むしろ、中年期や壮年期に大爆発しているというタイプの才能なんですね。
小林 そうそう。『生きる』は、やっぱり素晴らしいですものね。
芝山 黒澤さんのいわゆる「何かを言いたい映画」の代表ではあるんだけれども、その臭みが少ない映画なんですね。やはり役者がいい。
小林 初めは時間を順に追っていくはずだったんですってね。そしたら小国(おぐに)英雄が脚本(ほん)を見て、「こんなんじゃ駄目だ」って、それで、途中からいきなりお葬式になることにしちゃった。僕が好きなのは、ものすごい人数入れて市村俊幸がピアノを弾くところ。また、セットにキャバレーを作って、そこに倍のダンサーを入れたそうです。
芝山 ああいう群像シーンになると強いですねえ。
小林 『白痴』は別として、それまで、アクションの人だと思っていたから、「この人ちょっと違ってきたな」という感じがしました。脚本に小国英雄さんが入ってるせいだと言うけど、それだけじゃない。あの父子の感じというのは、すごい寂しいでしょう。
芝山 一種の化学変化が起きちゃうんですよね。
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