芝山 犬が人の手首くわえてる場面とか、気配がちょっと異様でしたね。陰惨な気配である、と小林さんはお書きになっていますが。
小林 この映画が人を斬る音を最初に入れたんですね。すぐに、邦画は無意味に血が流れたり、首が飛んだりする真似をした。
芝山 要するに、残酷描写ですよね。
小林 いま『用心棒』を観ると、黒澤さんが喜劇として撮ったことがわかりますね。それから『天国と地獄』。これはもう、芝山さんが書いた「日本の映画作家には稀な空間感覚を働かせ」という短評に尽きますよ。
芝山 いや、そんなことはないですけど。僕は、中学生ぐらいのときに観て、そのときも興奮したんですが、後年観直しても、本当にこれはよくできていますね。小林さんがお書きになったのを読んで驚いたのは、公開当時、みんな渋々褒めるような感じがあったと。
小林 一つは、盗作問題……、あれと似たような小説がたまたまあったんですよ。
芝山 エド・マクベインの小説以外にですか。
小林 そうです。もう一つは、黒澤が〈権力の味方になった〉という批判ですね。ある人は、仲代達矢の警部が、犯人を泳がせてもう少し罪を重くしてから逮捕しようというところを挙げています。
芝山 列車の場面は、東海道線の特急こだまですよね。
小林 あれを一発勝負で撮ったというのは、すごいですね。
芝山 助監督が役者を蹴飛ばしながら撮ったっていう……。最初に観たときは、犯人の山崎努に衝撃を受けましたね。黒澤さんは美男の悪役が好きなんですね(笑)。
小林 僕は横浜に住んでたから、黄金町が麻薬の巣窟(そうくつ)にしろ、いくら何でもこんなことはと思うんですけど、まあ、もうこれはいいんだと、様式美みたいなものでね。それと、後半の電車の音から腰越のアジトを突き止めていくところね。電話の背後の音からこれは江ノ電の音だっていうところですね。実にすごいなと思いました。俳優も、警察の会議のとこで藤田進がいたり、新聞記者かなんかで三井弘次がいるでしょ。
芝山 そう。清水将夫もいましたしね。みんな面構えがいいんですよね
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