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金融バブルに浮かれた人と、財政破綻した国――それぞれの不幸

金融バブルに浮かれた人と、財政破綻した国――それぞれの不幸

文:藤沢 数希 (ブログ『金融日記』主宰)

『ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる』 (マイケル・ルイス 著/東江一紀 訳)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #政治・経済・ビジネス

 住宅ローンとは庶民が住宅を担保に入れて金融機関から金を借りることである。金を貸している債権者には毎月の返済と金利が入ってくる。このキャッシュフローを大量に束ねてMBSを作ることができる。MBSをさらに束ねて、切り刻んだものがCDOである。ゴミくずのような住宅ローンをごっそりまとめた金融商品に、ムーディーズやS&Pという権威ある格付け会社が、それを売る投資銀行に頼まれてアメリカ国債並みの格付けをしていったのである。それぞれの住宅ローンは焦げ付く可能性があっても、ローン同士の相関は弱いので、全体としてはリスクが分散するというナイーブな仮定をそのまま信じ込んだ、あるいは信じ込まされたからだ。トリプルAの格付けがついたこれらの複雑な金融商品を、年金基金などの世界中の機関投資家が買った。

 それではこのような金融商品をどうやって空売りするのか? それにはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というデリバティブ商品を使う。CDSは債券のデフォルトをヘッジするための金融商品である。たとえばトヨタ自動車の社債を保有している人がいるとしよう。トヨタ自動車が倒産したら、この社債のかなりの部分が吹き飛んでしまう。たとえば100円の社債がデフォルトして30円しか返ってこなかったとする。ここでこの社債のCDSを買っておけば、それを売った人から損失分の70円を貰える。そのかわりCDSを買った人は、最初に決められた金額をこの保険料として、たとえば年間1%をCDSの売り手に払い続けなければいけない。この場合、トヨタ自動車の社債を100億円持っている人は、毎年1億円ずつ払えばトヨタ自動車が倒産しても損しないようにできる。

 トヨタ自動車の社債を持っていない人がCDSを買ったらどうなるのだろうか。この場合、毎年1億円払えば、トヨタ自動車が倒産したら最大で100億円儲かることがわかる。つまりCDSとはルーレットで数字に賭けるような非対称のギャンブルともなるのだ。ルーレットではピッタリの数字が当たる確率は38分の1だが、そのオッズも38倍からカジノの取り分を少々引いたもので、当たると大きい。つまりCDSを買えば、たった年間1億円を賭けるだけで、もし予想通りに会社が潰れれば、100億円儲かるチャンスに張ることができる。他人の家に火災保険を掛けて、他人の家が燃えるのを祈るような賭けだと思って頂ければ理解できるだろう。債券に投資するには、あたり前だがその債券が実際に発行され流通していないといけないのだが、CDSなら債券に投資したり、デフォルトに賭けたりすることが、その債券がなくてもこのデリバティブ商品の売り手と買い手さえいればどれだけでもできる。つまり実物資産がわずかしかなくても、無限大の大きさの市場を作り出せるのである。

 このように大量の住宅ローンの返済を当てにする複雑なCDOが、さまざまな金融機関に保有され、さらにCDOのCDSのようなデリバティブ商品の契約が、世界中の金融機関同士で締結されていた。それがアメリカの住宅バブルの崩壊が、瞬く間に世界中に伝播した理由だ。こうした複雑なCDOなどの金融商品を大量に抱えていたのは、欧州の銀行であり、それがユーロ危機を引き起こしてゆく。アメリカで庶民が住宅ローンを踏み倒したことが、グローバル化し複雑に絡み合った金融市場を通して、欧州の金融システムを崩壊の寸前まで追い詰めたのだ。そして、欧州の危機が、グローバル経済を通してアメリカにブーメランのように戻ってきて、アメリカの様々な自治体の財政を破綻させつつある。本書の『ブーメラン』という題名には、このような意味が込められているのだ。

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文春文庫
ブーメラン
欧州から恐慌が返ってくる
マイケル・ルイス 東江一紀 藤沢数希

定価:726円(税込)発売日:2014年09月02日

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