2013.09.19 きみは赤ちゃん

第9回 生みたい気持ちの成分は

文: 川上 未映子

 年が明けて1月もすっかり終わってしまい、妊娠も25週を越えたころ。お腹はまだそんなに大きくはなっていないけれど、しかしもちろん、ぱっと見れば、あなた妊娠してますね! と、わかる程度には大きくなっていて、見た目にも妊婦感が色濃くなってはきているのだった。しかしそれよりもなによりもすごいのは、お腹のなかで赤ちゃんの動きまわるその激しさ。感覚としては腸が独自に動く感じというのかしら。蹴る、という明確な感じではまだなくて、腸にたまったガスがちょっとかたまって、それがぐるぐるまわっているというような、そういう感じ。

 そして、食欲は相変わらずの旺盛ぶりで、三食はむろん欠かさず、ある日はおやつにスパゲティとチョコバナナワッフル&ソフトクリームを食べていたりしているのだから、今からじゃ、これはちょっとさすがに信じられない量だよね。あべちゃんは、ため息をついて「それくらいにしときなさいよ……」というのが、口癖になっているのだった。

 それにしても、こうやって妊婦は快調に太っていくのだな。そして、つわりの始まりにしても、終わりにしても、そのあとのもろもろに関しても、妊娠中の体って、ほんとうにもうそれは教科書どおりに変化していくので(ありがたいことでもあるんですが)、そのことにちょっと驚いたりもするのだった。意志とかそういうのが、まったくちからを持たないような、そんな気がして。

 

 ちょうどこのころ、テレビで政治家の野田聖子さんの妊娠、出産、そして生まれた息子さんの闘病のドキュメント番組が放送されて、大きな話題になった。わたしも直前に放送のことを知って見ることができたのだけれど、自分が現在、妊娠しているということもあって、いろいろ考えさせられる、なんともヘヴィーな視聴になった。

 日本では認められていない不妊治療を外国で受け、そして赤ちゃんを授かったのだけれど、生まれてきた赤ちゃんは複数の障害をもっており、生まれた直後から度重なる手術を受けつづけなければならない状態で、その様子を詳細に記録する、という内容だった。

 放送後、色んな人が色んなことを言ったけど、わたしが最初に抱いた感想は、「野田聖子の人生は、野田聖子の人生だよな」というようなものだった。

「子どもがかわいそうだよ」っていう意見がとても多かったけれど、でも、ある人が「50歳で子どもがほしいと思って、実現できる状況があったのでそうした」ことと、「たくさん障害をもって生まれてきて手術で痛い思いをする子どもがかわいそう」という共感と現状のふたつには、やはり何の関係もないと思うからだった。ある人がそう生きたい、と思うことに、思ったその時点で、どうして他人がそのことに口を出すことができるだろう。動機と結果のこのふたつは混同されがちなんだけど、はっきり、べつのものだと思う。

 だから、生んだ野田聖子さん本人だって、そんなふうにたくさん痛い思いをしなければならない息子さんがかわいそうだ、不憫だ、と思うだろうし、思ってよいのだし、思うのはふつうのことなのだけど、もしそういうことをテレビの中で口にでもしたら、「そんなふうに自分が生んでおいて、どの口が言うのか」、と条件反射的に嫌悪感を示す人が、きっと、すごく多いんだろうな、というような気がした。

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きみは赤ちゃん
川上未映子・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2014年07月09日

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