さて、話を望宅に移すと、オリジナル版では一階に居間、台所、風呂、便所があり、二階には和室が一つと、もうひとつ細長い部屋が奥にあった。この唯一の和室に布団を並べて一家全員で寝た。布団の順番は、東から順に、父、私、母、妹であった。窓の外にはベランダがあって、毎年季節になると梅や柿を干した。もう一つの「細長い部屋」についてはあまり記憶がない。
全体としては部屋数も少なく、小さな家であったが、その分まとまりがあって、効率良く生活出来ていたと思う。日本的に、親子で布団を敷いて川の字で寝るというのは子供にとっては安心で嬉しいものだ。子供の独立心の育成の妨げになると西洋人はいうけれど、日本式の育て方も、ひとつの正しい姿だと思う。自分が親の立場になった今も、その考えは変わらない。寝室が一つしかない小さな家では親と子が別に寝る選択肢がなかったわけだが、子供が小さいうちはそれで構わないのではないかと思う。
小学校に入ってしばらくしたころ、家を増築することになった。庭の一部をつぶして、部屋数を増やすことになったのである。第一段階として、一階に十畳の和室と縁側が出来た。その後、第二段階として、この和室の真上に子供部屋が二つできることになった。確か第一段階の工事は住みながら進められたが、第二段階の工事は家族で一年間ケンブリッジに行っている間に完成したと記憶している。
新しくできた子供部屋は素晴らしく快適だった。東に面した出窓の前に勉強机がおいてあり、窓から庭が見下ろせるだけでなく、遠目には新宿副都心のビル群が一望出来た。南側には大きなスライド式のガラス戸があり、ベランダに面していた。朝から夕方まで燦(さんさん)と日光が入り、冬場はポカポカと暖かい快適な部屋だった。ちなみに、妹の部屋は南側にはガラス戸が、西側に出窓があって西方の山々が遠望できた。どちらの部屋も南向きだから日光は十分にはいり、明るく、暖かい部屋だったのである。父は本書で「部屋は北向きを好む」と言い切っているが、私には南向きの部屋の方が魅力的に思える。
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