まずおことわりしておきたいのだが、本書は、二〇〇一年に朝日新聞社から出版された絵師天野喜孝さんとの共著である絵物語『鬼譚草紙』(後に文庫化)から、ぼくの文章のみを独立させて、あらためて文春文庫から発行されたものである。
本書を書くことになったきっかけは、天野さんとの雑談からである。
その時、我々は少しばかりお酒が入っていた。
場所は、飛驒(ひだ)山中にあるぼくの釣り小屋である。
「何かエッチな話をやりたいですねえ」
と言ったのは、たぶんぼくである。
「やりたいですねえ」
と、天野さん。
「エッチで、色っぽくて、でもちょっと怖い話」
「いいですねえ」
「いいですねえ」
「やりましょう」
「やりましょう」
酔った勢いで始めてしまったのが、本書の物語である。
朝日新聞社版では、天野さんの、豪華なカラーの絵がたくさん入っていて、たいへん贅沢(ぜいたく)な本となった。
それを、今回は、ぼくの文章のみを抜き出して一冊にすることとなった。
ぼくのわがままを了解して下さった関係者諸氏には、ここに深く感謝しておきたい。
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