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朝倉かすみの長篇小説『てらさふ』(古語。見せびらかす意)は、青春小説だ。
この小説では、小樽に住む女の子二人組が、「執筆担当」と「ヴィジュアル担当」という役割分担で、史上最年少の芥川賞作家になることをめざす。
野心ある若者の行為が世間のスキャンダルを呼ぶのは、スタンダールの『赤と黒』以来の青春小説の王道。だけど、『てらさふ』は「芸術家小説」としても新しい。
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小樽のはずれオタモイの食堂の娘・堂上弥子(どうのうえやこ)は、中学一年生にして、つぎのような割り切った人間観を持っていた。
〈ひとは、みんな、つなぎ役だ。〔…〕テレビや、映画や、歌や、ダンスや、絵や、小説や、写真のように、「なければずいぶんつまらないが、なくてもさして不自由はないもの」も同じ〉
弥子は自分がなにかで世間に注目されることを熱望してはいるが、それがかなったとしても、自分が〈本物が出てくるまでのつなぎ役〉であるだろうと自覚している。むしろ、〈つなぎ役〉としていかに〈2010年代を疾走〉するか、ということが、彼女にとって大事な課題なのだ。
ちなみにこの〈2010年代を疾走した〉というのは、自分が将来Wikipedia に項目として立てられたときのリード文案を弥子が夢想したものだ。
2
弥子の学校に、札幌から鈴木笑顔瑠(にこる)というキラキラネームの美少女が転校してくる。愛称はニコ。
ニコと一六歳しか違わない母は早くに男と出奔し、ニコと三七歳しか違わない祖母は、ニコと六〇歳違いの曾祖母に、一二歳の彼女を押しつけるようなかっこうになった。
小説を読んでいくとわかるが、ニコの耳のなかではときどき、テンポが速くてパーカッシヴな〈音〉が鳴りはじめることがあるらしい。
〈はじくような、打ちつけるような、乾いた音が強弱をつけて速いリズムを刻む。それだけで息苦しくなるのに、弦がゆっくり昇っていくようなメロディを奏で、それを、二、三度繰り返したら、弦の音が増え、最初の乾いたリズムも合わさって、より速く、複雑になっていく〉
こうなるとニコは自分のリビドーを抑えられなくなる。衝動的な行動に出てしまいそうな自分をどうすることもできない。
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