- 2015.06.19
- 書評
ピース又吉と太宰治の因縁! 芥川賞選考会の謎に迫る
文:鵜飼 哲夫 (読売新聞文化部編集委員)
『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』 (鵜飼哲夫 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
芥川賞の報道合戦は、主催者の日本文学振興会から発表される「候補作決定のお知らせ」をもって始まる。昭和10年(1935年)に始まり、今年でちょうど80年になる芥川賞のお知らせ方式が、この7月16日に選考会が行われる「第153回芥川・直木賞」から少し変わった。候補作を、候補者の略歴とともに知らせるのは同じだが、縦書きが横書きとなったこと、さらに〈なお、近年、選考会場・記者会見場の混雑が著しく増大しており、報道各位には大変ご迷惑をおかけしています。授賞発表・記者会見の円滑な進行のために皆様のご協力を賜りたく、あらかじめ注意事項に目通し下さいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます〉という「なお書き」が、いつもより詳しかったからだ。
平成15年下半期の第130回で、綿矢りさ(19歳)、金原ひとみ(20歳)という史上最年少の女性2人によるダブル受賞が決定して以降、報道合戦は過熱、第144回に「苦役列車」で受賞した西村賢太が「そろそろ風俗に行こうかと思っていたら、受賞の知らせがあり、行かなくてよかった」と受賞会見で語るなど、話題性も多い。注意書きには、東京の選考会場前の路上での取材では〈通行する方のご迷惑にならないようお願いいたします〉とあり、このほかTVカメラでの取材は事前に申請することなどが書かれている。
第1回芥川賞では、賞を創設した菊池寛が、〈芥川賞、直木賞の発表には、新聞社の各位も招待して、礼を厚うして公表したのであるが、一行も書いて呉れない新聞社があったのには、憤慨した〉と『文藝春秋』(昭和10年10月号)で怒りをあらわにしていることを考えると、まさに隔世の感である。
候補者の顔ぶれを見ると、これはきっと報道合戦は過熱するだろうと思われる顔ぶれであった。お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹「火花」(「文學界」2月号)をはじめ6作が候補になっている。「火花」は、人気芸人による初の本格小説であり、先の三島由紀夫賞では、決選投票で3対2で惜しくも賞を逃し、選考委員の辻原登に「落ちるはずのない作品が落ちた」と言わしめた小説である。「お笑いはダウンタウン。小説なら太宰が僕にとってのスター」と公言する又吉は、「人間失格」を100回は読んだという太宰フリークである。