- 2015.03.02
- 書評
アフガン、イスラム国の上空に潜む
無人偵察・攻撃機はいかにして進化したのか
文:赤根 洋子
『無人暗殺機 ドローンの誕生』 (リチャード・ウィッテル 著/赤根洋子 訳/佐藤優 解説)
ジャンル :
#ノンフィクション
プレデターの武装化は、技術的にも政治的にも大きな困難を伴った。それらを一つ一つクリアし、武装プレデターのアフガニスタンへの配備まであと一歩というところで、9・11同時多発テロが勃発する。武装プレデターの開発と配備は、まさに時間との戦いだったのである。9・11前後の緊迫した状況を、本書は臨場感溢れるタッチで描き出している。その展開は、まるでハリウッド映画のようにスリリングかつドラマチックである。
プレデターに関わった登場人物たちも、まるで映画に登場するような個性派揃いである。アメリカンドリームを実現しにイスラエルから移住した天才航空エンジニア、純血の(そして冷血の)資本主義者である実業家兄弟、地球の裏側から敵を狙い撃ちする方法を編み出した「脳みそが二つある男」、「迅速かつダーティーに」目的を達成することを得意とする黒幕、命知らずの戦闘機パイロット上がりの空軍参謀総長、カウボーイというあだ名を持つ熱血漢の空軍少佐、チンギスと呼ばれる超アグレッシブな女性パイロットなどなど。そして、彼らの口からは、本物のアメリカンジョークが頻繁に飛び出してくる。
著者リチャード・ウィッテルは、アメリカの航空・軍事ジャーナリスト。「ダラスモーニングニューズ」のペンタゴン記者を二十二年間務めるなど、三十年にわたって軍事問題の取材を続けてきた。プレデターの開発・配備・運用に携わったおびただしい数の人々への綿密な取材を土台として、著者は本書を書き上げている。取材対象はCIA幹部や軍上層部など、職業柄きわめて口の堅そうな人物ばかりである。そんな人々からよくこれだけの話を聞き出せたものだと感心するが、これには長年の記者生活で培った人脈とスキルがものを言ったのだろうと思われる。
これだけ大勢の人々への、膨大な時間に及ぶインタビューを最大限に生かしつつ、それらをすっきりとテンポよくまとめ、息もつかせぬ読み物に仕上げる筆力もベテラン記者ならではである。軍事一筋三十有余年の著者ではあるが、彼はただの兵器オタクではない。本書の面白さは、まず第一に、プレデターを巡るCIA及び軍の内幕や政治的時代背景が詳細にしかも分かりやすく描かれていることにある。技術開発史としての部分ももちろん面白いが、本書は、プレデターを通して見たアメリカ現代史としても秀逸である。
冒頭、著者は、「おそらくはどんな物事にでも知られざる歴史があり、正しく伝えられたものを知ることができれば、それを知ることは楽しいだろう」というジェームズ・ボズウェルの言葉を引用して本書のモットーとしている。「知られざる歴史」という点、「正しく伝えられたもの」という点で、このモットーはまさに本書に相応(ふさわ)しいと言える。そして、「それを知ることは楽しい」という点でも、本書は読者の期待を裏切らないものと確信している。
二〇一五年一月
(「訳者あとがき」より)
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