世界的なベストセラー作家ジェフリー・ディーヴァー氏が、かのイアン・フレミングの生んだ「007」を主人公とする小説を書き下ろした。《世界最高のサスペンス作家》と《世界最高のヒーロー》の夢のコラボレーションである。
2010年初夏に制作の発表が行われて以降、《Project X》というコードネームで呼ばれていた極秘プロジェクト。秘密厳守を誓約する文書に署名しないかぎり、小社の担当編集者も翻訳者も、原稿をみることが許されないという厳戒ぶりだった。それが今回邦訳された『007 白紙委任状』。9・11後の世界を背景に、6日後に迫る謎の攻撃計画を阻止すべく、セルビアからイギリスへ、ドバイへと駆けめぐる007の苦闘を、ドンデン返し満載の緻密なプロットで描ききったディーヴァー氏に話を聞いた。
――あなたのようなベストセラー作家が007の物語を書く、というのは一つの事件だと思います。この企画はどんなふうにはじまったのでしょう。
ディーヴァー(以下 D) そもそもは2004年、わたしが長編小説『獣たちの庭園』(文春文庫)で、イギリス推理作家協会がその年で最優秀のスリラーに与える《スティール・ダガー賞》を受賞したことにはじまります。
――ナチス・ドイツを舞台にした冒険小説でしたね。
D ええ。この賞は正式名称を《イアン・フレミング・スティール・ダガー》といって、007の著者フレミングの名前が冠されています。
このときの受賞スピーチで、わたしはこの賞をいただけたことがどれほど名誉であるのかを話しました。わたしは幼い頃からジェームズ・ボンドの物語を読んで育ち、フレミングという作家から非常な影響を受けているのだと。
今回の企画をオファーしてきたのはイアン・フレミングの版権を管理する《イアン・フレミング・エステート》と《イアン・フレミング・パブリケーション》という2つの団体でしたが、たぶんわたしのスピーチの内容を聞きつけたのだと思います。2010年の春ごろに連絡があって、「007の続編を書く気はないか」と訊かれました。わたしは一分ほど考えて、イエスと答えました。
――『007 白紙委任状』を拝読した限り、コラボレーションは見事に成功したのではありませんか。
D ありがとうございます。かれこれ30年にわたって、わたしはスリラー小説(註・冒険小説、スパイ小説、サスペンスなどを指すジャンル)を書いてきましたが、今回の執筆にあたって、これまでにない困難を感じたのは確かです。
わたしが第一に果たさなくてはいけないことは、ディーヴァーらしい小説を書くことで何百万人もの読者を満足させることに尽きます。つまり、非常にテンポが速く、さまざまな事柄について面白い情報が満載で、プロットが何度も反転し、ドンデン返しが連続するような小説。しかもこれらすべてを緊密に凝縮しなければなりません。
そして同時に、007のファンもちゃんと満足させなければならない――映画のファンも原作のファンも両方ですね。世の中にはイアン・フレミングの書いたものを丸暗記しているような熱狂的ファンもいるんですよ。わたしがお預かりしたキャラクターを、そうしたファンのお眼鏡にかなうように描かなければいけないわけです。
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