- 2015.03.02
- 書評
アフガン、イスラム国の上空に潜む
無人偵察・攻撃機はいかにして進化したのか
文:赤根 洋子
『無人暗殺機 ドローンの誕生』 (リチャード・ウィッテル 著/赤根洋子 訳/佐藤優 解説)
ジャンル :
#ノンフィクション
一年ほど前、Amazon.comが小型無人機(ドローン)による商品の配送サービスを計画中であることを発表して話題になった。早ければ二〇一五年にサービスを開始するという話だったから、ひょっとしたら、今年中にアメリカの上空をアマゾンのドローンが飛び交うことになるのかもしれない。
アメリカでは国境警備に無人機(ドローン)が投入されているというし、日本でも、活火山上空の観測や福島第一原発の事故現場のビデオ撮影や放射線測定に使われるなど、無人機の活用は進んでいる。
元々軍事用に開発された技術が民間転用されて普及した例はGPSやインターネットなど数々あるが、無人機も、最近になって急速に民間利用が進んだ軍事技術の一つである。この「無人機革命」の先駆けとなったのが、アメリカの無人機プレデターである。そして、この無人機プレデターがいかにして誕生し、いかにして無人攻撃機となり、さらに無人暗殺機へと変貌していったかを克明に追ったのが本書『無人暗殺機ドローンの誕生』である。
プレデターは、元々は無人攻撃機ではなく無人偵察機だった。プレデター(捕食者)というその恐ろしげな名前(ちなみに、命名者によれば、これは有名な映画のキャラクターとは無関係だという)も当初、「それではまるで攻撃機のようだから不適切」だとして、顧客である軍から難色を示されたほどだった。
折しもソ連の崩壊によって冷戦が終結し、軍事費は削減されていた。無人機にとっては真冬の時代だった。
しかし、冷戦の勝利をアメリカが唯一の超大国として謳歌する時代は長くは続かなかった。冷戦終結後、旧ユーゴスラビアで民族紛争が起き、アメリカはこれに介入することとなる。プレデターが真のデビューを果たしたのはそのときだった。航続時間が驚異的に長いというその特性を遺憾なく発揮し、プレデターはボスニア紛争で無人偵察機として大活躍する。それと同時に、実戦投入されたことによって、プレデター自身の性能も格段に向上することとなった。
時代はやがて、民族紛争から対テロ戦争の時代へと大きく移り変わっていく。CIAと空軍は協力してプレデターをアフガニスタンへ飛ばし、アルカイダ指導者オサマ・ビンラディンの追跡を開始する。果たしてプレデターのビデオカメラはアフガニスタンに潜伏中のビンラディンの姿を見事に捉えるのだが、偵察機によってできることには限界があった。「プレデターが標的を発見してから巡航ミサイルを発射していたのでは、その間に標的が移動してしまうかもしれない」との理由で、ビンラディンを発見できたにも拘わらず結局は何の行動も起こせなかったのである。それならプレデター自体にミサイルを搭載すればいい、という発想から、プレデターの武装化が推し進められることとなった。それは、9・11の同時多発テロが起きる一年足らず前のことだった。
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