書評

夢の続き

文: 一色 隆司 (NHKエンタープライズ・エグゼクティブ・ディレクター)

『1985年のクラッシュ・ギャルズ』 (柳澤健 著)

 柳澤健さんの「1985年のクラッシュ・ギャルズ」は、クラッシュ・ギャルズを知る人も知らない人も魅了する、夢に向かって走り続けた少女たちの挫折と栄光の物語です。あきらめなければ夢はきっと叶う……気が付けば上を向いて歩いている、読んだ後にそんな思いにさせてくれる作品です。

 そして、この作品を読むともう一つ感心することがあります。私にとって一九八〇年代は、時代のカラーがありそうで、実は全然何も思いつかない時代でありました。歴史をひもといても動乱の七〇年代が落ち着き、バブルの九〇年代への橋渡し的なイメージしか持ち得ず、八〇年代後半に青春時代を迎えていた私にとって時代のカラーを表現するのは、いつも難しいことでした。

 しかし、本書を読むと一九八〇年代の色が鮮明に伝わってきます。アイドル全盛時代で一億総中流時代、そして、誰もが世界はいい方向に向かっていると感じていたそういう時代だったのです。クラッシュ・ギャルズの生き様を描く行間の至る所に八〇年代の匂いを感じることができ、そして、当時のことを知る人は思わず頷きながら本書を読み進めることでしょう。八〇年代を知らない人にとっても、こういう時代だったのだ……と感じていただくことができる大変興味深い作品となっています。

 先に触れましたドラマ化については、結局映像化は難しいということで、青春アドベンチャーというラジオドラマとしてNHKで放送しました。私にとって初めてのラジオドラマの演出でしたが、ジャガー横田さんやダンプ松本さん、そして長与千種さん達に実際にお会いすることもでき、色々とお話を伺えました。当時実況を担当されていた志生野温夫さんにもドラマの中で実況役を担当していただきました。効果音の取材では井上京子さん他の女子プロレスラーの皆さんにも参加いただき、マットの上を何度も飛んだり跳ねたりしていただきました。

 女子プロレス界は、夢見る頃を過ぎてしまっているのかもしれません。しかし、お会いした皆さんの目は情熱に溢れ、新たな夢に向かって突き進んでいらっしゃいました。夢はあきらめなければ、きっと叶う……そう思い続け、努力し続けることが、何よりも大切な事なのでしょう。

 長与千種さんは、二〇一四年三月にまたリングに上がります。彼女たちの夢はまだまだ続いているのです。

 本書を読んだ方は、夢の大切さを実感すると共に、勇気や元気をたくさんもらえたのではないでしょうか。柳澤健さんの「1985年のクラッシュ・ギャルズ」は皆さんにとっても、また夢を語り合うきっかけになる作品になってくれると確信します。

1985年のクラッシュ・ギャルズ
柳澤 健・著

定価:600円+税 発売日:2014年03月07日

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