2007.09.20 インタビュー・対談

恐いんだけどじっと見てしまう

聞き手: 「本の話」編集部

『夏光』 (乾ルカ 著)

――乾さんのデビュー作『夏光(なつひかり)』の表題作は、昨年、オール讀物新人賞を受賞されました。漁村に疎開した少年と、顔に大きな黒い痣(あざ)がある少年との友情を描きつつ、そこに人の死期を察知する超常的な能力や、村人たちが妄信するスナメリの祟(たた)りといったホラー的要素を巧みに絡ませて、選考委員から高い評価を得ました。じつはその前年にも最終候補に残っていらしたそうですね。

 はい、「復活」という作品ですね。処刑された隠れキリシタンの女性が密告した男に復讐するために蘇り、最後には首だけになっても追いかけてくるという話です(笑)。

――大変な異色作で、選考会の席でも話題になりました。この「復活」も「夏光」も、また単行本に収録されているほかの作品も、ジャンルで言うとホラー小説ということになると思います。やはりホラーがお好きなのでしょうか。

 べつにホラーを書こうと思って書いたわけではないんです。恐がらせてやるぞ、という気持ちはあまりありませんし、実際のところ私の作品はそんなには恐くないのではないでしょうか。ただ、ちょっと気持ち悪いものが好きなことは確かで、子供のころから動物の死骸とか、恐いけど目が離せないという経験は数々ありました。

――読書体験としてはいかがでしょう。思い出に残るホラー小説などありますか。

 初めて読んだホラー小説は小池真理子さんの『墓地を見おろす家』で、これは読んだ後の夜には、「ああ、読まなきゃよかった」と思うくらい恐かった。いまだに心に残ってます。あと、好きな作家さんというと朱川湊人さんですね。『都市伝説セピア』に収録されている「昨日公園」という作品がすごく好きです。

――朱川さんは推理小説新人賞ですが、同じオール讀物の新人賞から出た先輩ですね。

 グロテスクなものが好きというのは自分の趣味かもしれないので触発されたというとちょっと違うのかもしれませんが、朱川さんの作品を読ませていただくと、こんなふうに書ければいいなと思いますね。

――たしかに、朱川さんの作品とくらべると、グロテスクなイメージは乾さんの方が強いかもしれませんね。

 「夏光」に、主人公が腐敗したスナメリの目玉を食べさせられるという場面があります。あんなもの絶対食べたくないですけど、だから逆に書いてみたいと思うわけです。書くということが、ある種の疑似体験になっているのかもしれませんね。

――選考委員のおひとりの杉本章子さんは、選評に「スナメリの腐った目玉にすら物語の香気が漂うよう」だとお書きになっています。さて、この作品集は二部仕立てになっていて、第一部「め・くち・みみ」には「夏光」以下、戦前から戦中を舞台にした作品が三篇、第二部「は・みみ・はな」には現代が舞台の作品三篇が収められています。そして、いずれの作品も人の体の一部が物語の中で重要な役割を果たします。

 受賞後、オール讀物から受賞第一作を書くように言われて書いたのが「風、檸檬(れもん)、冬の終わり」で、これがたまたま鼻というか嗅覚がテーマの作品でした。「夏光」は目と視覚にまつわる話でしたので、じゃあ本にするときは人体の一部で揃えようということになりました。

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夏光
乾ルカ・著

定価:本体581円+税 発売日:2010年10月08日

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