──信念、で連想しましたが、作中、惨劇のさなかで、個人的で奇妙なジンクスにすがる少年が登場しますね。
貴志 あれはもはや呪術です(笑)。どうしようもない現実に直面すると、こういうことってやってしまうんですよね。
──B級アイドルの唄を一か所も間違わずに暗唱できれば、助かるという、いかにも効かなそうなジンクスで。しかし、ひとつやふたつ誰でも覚えのあるものでもあります。
貴志 本当に人間って呪術的な生きものだと思いますね。例えば自分の力ではいかんともしがたい、野球とかワールドカップを応援してるときなんか、もう呪術だけですよ。相手が攻撃してるときと、こっちが攻撃してるときは、まあ、詳しくは言いませんけど、当然、見てるポーズが違うという。
──ポーズが違うんですか?
貴志 点の入るポーズと、入りにくいポーズがあるんです。
猫山先生は殺せなかったですね
──貴志さんご自身の高校時代はどのような感じでしたか。
貴志 われわれのころは、まだ戦前の影響がぎりぎり残っていたんじゃないかと思うんです。先生たちが教えを受けたのが戦前の教師だったことで、二次的に受けた影響ですね。かなり厳しい体罰もありました。私のいた高校は管理が厳しかったところなので、秩序は完璧に保たれていました。
──晨光学院の教師たちはくせ者ぞろいですが、モデルのある先生はいらっしゃるのでしょうか。
貴志 園田先生には、実際にいらした三人の体育教師の特徴をミックスしたという面があります。まあ、三人とも怖かったですよ。一人はほんとにプロレスラーみたいな教官で百キロ以上あって、誰も逆らえない。もうお一方は少林寺拳法の全国大会で準優勝されたという武道の達人。もう一人は剣道の先生なんですが、毎朝、巻藁(まきわら)を真剣で斬っていました。あの先生たちが三人いたら、どんなに荒れた高校でも治まると思いますね。もう鍛え方が傭兵みたいでしたから。
──園田先生の渾名(あだな)は羆殺しでしたが、その先生方に通称はあったのでしょうか。
貴志 少林寺拳法の先生には、ムササビという渾名がありました。普通、ムササビって身が軽いからなんじゃないかって思うじゃないですか。そうじゃないんですよ、両腕を掲げると、肘から肩にかけての二の腕のあたりに筋肉がムササビのようについている。そのせいで腕が短く見えるということなんですね。
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