
駅舎の出いりぐちがあるらしいがわにはかなり広い道も通り,灯しはじめた店のいくつかもあったが,ぎゃくがわは林だった.まだ空には明るみがのこっているのに,深いのか葉の多いたちの木なのか塗りつぶした黒に見えた.
乗りつぐ列車を待って林を向いたこしかけにいると,ふと光のぬい目が右から左へうごいて過ぎた.あまり遠くないあたりに道があって,車が走っていったのだとわかった.過ぎてしまうとまた闇にもどる.三すじ四すじつづくこともあり,しばらくとぎれることもあり,みな右から左へなのは,その向きにしか使わないきまりの細い道らしい.
きらめくぬい目の高さがおなじなのは,そこだけすきまがあるせいではなく,道の位置と私の目の位置とのせいであり,むこうから強く照らせば林のどの高さにもすきまはあろう.あるいは私が地に這い天に昇れば,べつのすきまがきらめくだろう.
林も車も,もれこぼれているものを知らないで,だまって繁り,まっしぐらに疾っていた.
《連載完》 つづきは単行本にてお楽しみください