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abさんご・感受体のおどり

黒田夏子

abさんご・感受体のおどり

黒田夏子

くわしく
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登場人物紹介

 駅舎の出いりぐちがあるらしいがわにはかなり広い道も通り,灯しはじめた店のいくつかもあったが,ぎゃくがわは林だった.まだ空には明るみがのこっているのに,深いのか葉の多いたちの木なのか塗りつぶした黒に見えた.

 乗りつぐ列車を待って林を向いたこしかけにいると,ふと光のぬい目が右から左へうごいて過ぎた.あまり遠くないあたりに道があって,車が走っていったのだとわかった.過ぎてしまうとまた闇にもどる.三すじ四すじつづくこともあり,しばらくとぎれることもあり,みな右から左へなのは,その向きにしか使わないきまりの細い道らしい.

 きらめくぬい目の高さがおなじなのは,そこだけすきまがあるせいではなく,道の位置と私の目の位置とのせいであり,むこうから強く照らせば林のどの高さにもすきまはあろう.あるいは私が地に這い天に昇れば,べつのすきまがきらめくだろう.

 林も車も,もれこぼれているものを知らないで,だまって繁り,まっしぐらに疾っていた.

《連載完》 つづきは単行本にてお楽しみください

文春文庫
abさんご・感受体のおどり
黒田夏子

定価:1,034円(税込)発売日:2015年07月10日

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  • 『数の進化論』加藤文元・著

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