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経済的安定かロマンスか? 二つの「婚活」

経済的安定かロマンスか? 二つの「婚活」

文:山田 昌弘 (中央大学教授)

『コンカツ?』 (石田衣良 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 イギリス、マンチェスターで婚活の講演をした時、イギリス人男性教授から、「なぜ、確率的に低いと分かっていながら、日本の女性は高収入の男性を求めるのだ」という質問を受けた。その答えもこの小説に書いてある。大学院博士を出ながら非正規の派遣社員として働かざるを得ない智香の元同級生である小百合が「実際には無視できるほどちいさな確率でも、その結果がはっきりとイメージできる場合、人は経済合理性よりも期待や恐怖に駆られて、結果的にはただしくない選択をしてしまう」と語る所がある(二二七ページ)。これは、まさに、データ婚活に走る女性の心理を述べているのだ。高収入の男性と結婚できたら、こんなセレブな生活ができる、そしてそのチャンスはゼロではないと思い、結果的にそれは実現できない確率が高い。なにげない会話の中にも、石田さんはいろいろな仕掛けを忍ばせている。

 石田衣良さんが小説で伝えたいこと、そして、私が研究の中で見えてきたことが、実は同じ事ではないかと思えてきた。それは、「ロマンスは経済を超えられるだろうか?」という問いへの答えである。この問いは、尾崎紅葉の『金色夜叉』(お金持ちと結婚するために学生の主人公を振る)を出すまでもなく、恋愛結婚が普及して以降、小説の中で繰り返し語られてきたテーマである。

 本書の主人公四人は、それぞれの仕方でロマンスの相手を見つけ出す。それは、四人とも形が違い、データ婚活の視点から言えば、変則的な組み合わせである。一人は三歳の年下婚、一人は不倫の末の未婚の母の選択、一人はルックス的に不釣り合いの男性を選ぶ。そして、智香はこれまた年下で自分より収入が低い小説家志望の男性とのロマンスが始まろうとしている。ロマンスによる幸福の追求、その先にある結婚、これこそ、私が言いたかった本当の婚活の形ではないか。驚くことに、本小説では、一世代上の智香の両親は、それぞれ、経済を超えたロマンスにいとも簡単に移行する様が描かれている。

 そして、石田さんは男性へのメッセージも残していることに気づいた。「どうにもならない世界より、自分の生活を充実させることのほうが、ずっと重要ではないか。(…)自分の幸福は違う。心がけしだいで、どうにでもなるものだ。男たちがそれに気づいて、世界や社会より自分の幸福の追求に目覚めてくれたなら、きっとこの国の多くの女性がもっと幸せになることだろう」(二二四ページ)とある。今の時代、自分の収入を増やしたいと思ってもなかなかできない。しかし、収入は不十分でも、心がけ次第で、女性にとって生涯楽しく生活するパートナーになることができるのだと。ロマンスが経済を超える時代の到来を願って、解説を閉じたい。

コンカツ?
石田衣良・著

定価:本体560円+税 発売日:2015年02月06日

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