そして、おっばい&乳首。
これには素直に「いい夢みさせてくれてありがとうな……」とひとこと感謝したい気持ちが正直、ないでもないのよね。というか、普通にあるよ。というのも、まあよく聞く話ではあるけれど……ほんとーーーーに巨乳になるんだよねっ!! まっすぐに立つだけで腕の内側に胸のあたる感触があり、縦にも横にも自信満々というか、どこに出しても恥ずかしくない、名実ともにすごいおっぱい、というのを味わわせてもらったような気がする……。これまでは概念でしかなかった「下乳」というものが我が身に確認できた、あの感じ。どこからみても完全な、寄せる必要のない「これがおわん型というものか!」と感嘆せずにはいられないようなそんなおっぱい(そのぶんお腹も大きいのだが)。おっぱいだけみれば、史上最高の輪郭で、「胸が重くってしんどい~♡」とか、生まれて初めて言えた、あの感じ……わたし、忘れないと思うナ。
しかし、そんな夢のようなおっぱいを現実に引き戻すのが乳首であって、これが大変に疎ましかった。おっぱいの第一義が授乳である以上、それに耐えるために色を濃くして待機するのはしょうがないし、摂理だし、それについても散々、みんなから聞いて相当の覚悟もしていたのだけれど、やはり日に日に色素が濃くなり、快調にそれが沈着してゆく乳首を見ていると、「オウ……」と思わず悲観の声を漏らさずにはいられなかった。いつもはどちらかというと、おしとやかななベージュ・ピンクに身を包み、いい意味でコンサバティブな装いでいつだってそこに伏目がちに佇んでいたのに、最近になって何があったのか雰囲気ががらっと変わり、気がつけば、なんかハードな音楽ががんがん鳴って、ボンテージファッションに開眼して全身隙なくぴっちぴちのきっちきちの黒、真っ黒、めっさ黒、ぜんぶ黒みたいなそんなあんばいになっており、心なしかちょっと攻撃的な感じすらあって、「わ、我が娘はどうしてこうなった」みたいな嘆きと驚きが、「おふろ入ろっかな♪」と思って脱衣した瞬間、「!!!!!」みたいな感じで不意に襲ってくるんである。乳首が、目に飛びこんでくるんである。これがたいへんにぎょっとするもので、いつまでも慣れないんである! ……わたしは拙作「乳と卵」で、妊娠中の乳首の色について、「アメリッカンチェリー色」と、「これ以上はない、深みのある、真実の、黒」という自負をもって、内心では「どやぁ……」感、満載でノリノリで描写したことがあるけれど、いま、当時の自分の想像力のなさ、あるいはリサーチ不足を、謹んでお詫びしたいと思う。じっさいは、そんなんじゃなかった。アメリッカンチェリーなんて、まだぜんぜん黒じゃなかった。チェリーとかじゃなかった。妊娠中の乳首はね、液晶テレビの黒だったよ。電源を落としてるときの、液晶テレビの画面の黒、だったよ……。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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