そんなふうな、ほとんど泣き笑いのような「!!!!!」の連続だった体の変化だけれども、でもこれって基本的に、みんなそうだからね……女性一般に対してあるかもしれない幻想を土足で踏み散らして申し訳ないけれど、どんな若い子だって、可愛い子だって、程度の差こそあれ、みんなこうなるんだからね……お腹の赤ちゃんにビタミンやカルシウムをどんどんとられて、奥歯がぜんぶ虫歯になる人だって、本当に多いのだからね……もう、見た目も中身も、命がけやで。
しかし、悲しいことばかりではなかった。妊娠中は、しみ、そばかす、ほくろが大量発生したことはしたけれど、しかし、肌の状態は、これまで生きてきたなかで、い ち ば ん 素晴らしい状態をキープしつづけて、なんというか、ぴかぴかだった。わたしは若い頃からチョコレートやポテトチップスといったお菓子を食べると、あごのあたりにてきめんににきびが出たり、大人になってからもぶわっと吹き出物が出ていたのだけれど、妊娠してからは何をどれだけ食べようと、なんにも一切、でなかったのである。これは出産が終わってからも持続していて、なんか、肌質がそっくり入れ替わったのかと思えるくらい、肌はいつもつるつるぴかぴかで快適であった。しかしもちろんこれも、人によってケースがあって、たとえばわたしの姉の場合は、ふだんつるっとした肌なのに、ほんとうにデコポンの果皮のようになってしまって、大変に苦労していたのを覚えてる(生んだらすぐに治ったけれど)。
そんなふうにさまざまな変化を観察しながら、「パイの実」を連続で4箱とか食べながら生活していた2012年の春。4月もそろそろ終わりに入り、ゴールデンウイークをまたぎ、そして5月も半ば。いよいよ。出産が目前、というところまでやってきた。
週数的にはもう、いつ産気づいてもオッケー、みたいな時期に入っており、しかし検診ではまだ子宮口がかたいままでまったく開いていないので、階段の昇り降り、雑巾がけ、ってなことをひととおりやって過ごしたりした(エアロビも、最後の1ヶ月はがんばった)。40週での出産を目標に、「降りてこい、降りてこい」と念じながら、のっしのっしと、下半身を動かしていた。仕事は連載原稿を来る日も来る日も前倒しで書きつづけ、小説をやり、ゲラをかえし、もう自分がいま何のどんな原稿を書いているのかも、わからないようなそんなあんばいであるのだった。
ある夜、「ああ、ほんとうにわたし、赤ちゃんを生むんだな。これで、あべちゃんとふたりの生活も、ほんとにほんとに終わるんだな。それも、今週末には」と、眠れない夜、真っ暗な天井をみつめながらそう思うと、「 今 週 末 」というのがてきめんにどこかに効いてしまったようで、発作的に胸がどっどっと高鳴り、いてもたってもいられなくなってベッドからがばっと体を起こし、わああああああっと取り乱して泣いてしまった。驚いて飛び起きたあべちゃんに話にもならない混乱をぶちまけ、言葉にならない嗚咽をふくめ、胸にあることを長い時間をかけてきいてもらった(何回目だよ)。あべちゃんは半分白目のまま辛抱強く話しをきき、どの問いかけ、発露にも、全方位に適応してくれ、最後はなぜか、おっぱいパブとおしりパブの話になって、元気になって寝た。そして、久々にたっぷり泣いて、どんどん落ち着きを取り戻し、すーっとした気持ちですやすや眠りにつくことができたのだけど……そのときのわたしはもちろん、翌日、破水をしてそのまま入院&予測していなかった怒涛の出産に突入することなど、知る由もないのだった。
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