インタビューほか

天国のような喜劇の世界
笑いの天才P・G・ウッドハウス
岩永正勝×小山太一

「本の話」編集部

『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻』 (P・G・ウッドハウス 著/岩永正勝 小山太一 編訳)

人工的かつナチュラルな

小山 これは僕としてもすごい苦労した翻訳でした。

岩永 そうでしたね。

小山 完璧なんですよ、この散文は。ひとこと足してもひとこと引いてもだめ。だから日本語もその呼吸にできるだけ近づけたいんだけども、悲しいかな、そこは才能の差ですね。

岩永 文章自体は、いわゆる平易な文章と言ってしまっていいのかなあ。

小山 平易なんですが、あれはおそらく、声に出したときに、その調子のよさが活きる文章なんでしょうね。おそらくウッドハウス自身の心臓の鼓動と軌を一にするようなリズムをもった散文。だからいちばん人工的、かつ、ナチュラルな散文だと言えばいいのかな。

岩永 まさにそのとおりですね。ウッドハウスの文章は平易だ平易だと言うけど、なんのことはない、読んでて心地いいという意味なんですよね。訳しやすい文章では必ずしもない。

小山 これだけは強調しておきたいんだけども、僕らは、訳者が笑い出すということは絶対にするまいと心がけました。

岩永 ユーモア小説だからといって、はしゃがないようにしましょうと。

小山 読者を笑わせるものであって、こっちが笑ってどうするということですよね。そういう美意識はウッドハウスの小説にはものすごく強く感じます。

岩永 こういう才能というのは、訓練とか教育で習得できるものじゃないわけでしょう、たぶん。ウッドハウスを継いだという作家は聞いたことがないですし。

小山 日本でウッドハウスに近いユーモア小説家って誰かいるのかなと考えたことがあって、結論としては、佐々木邦(ささきくに)ではないかと。佐々木邦は英文学の先生ですから、ウッドハウスは絶対に読んでいたと思います。彼の小説はじつに会話がワンパターンで、先も読めるんだけれども、読んでて気持ちいいんです。

岩永 ジーヴズに限って言えば、僕は「ドラえもん」に似てると思う。気のいいやつが難問を抱えて困っているのを、最後に助けてやるという(笑)。

小山 人生というのはバカバカしい喜劇だというのが、モダンな喜劇のあり方です。でも、この浅ましい世界とは別に、天国のような喜劇の世界もあるんだという、それがウッドハウスの喜劇のあり方だということでしょうね。

ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻
P・G・ウッドハウス・著/岩永正勝 小山太一・編訳

定価:本体552円+税 発売日:2011年05月10日

詳しい内容はこちら


 こちらもおすすめ
書評心の力みの抜けるウッドハウスの小説(2011.06.20)
文春写真館吉田健一の『食うために生きる』(2010.04.12)
インタビューほか天国のような喜劇の世界 笑いの天才P・G・ウッドハウス 岩永正勝×小山太一(2005.06.20)
書評名作がいっぱい 文春文庫の海外ミステリを振り返る(2014.04.23)