2013.12.03 書評

二人の検事が信じる正義とは

文: 雫井 脩介 (作家)

『検察側の罪人』 (雫井脩介 著)

 大田区で老夫婦が刺殺される事件が起こった。捜査に立ち会った東京地検のベテラン検事・最上は複数の容疑者の中から一人の名前を発見して驚愕する。それは23年前、最上が学生時代に住んでいた寮の管理人夫婦の娘が殺された事件で犯人と目されていたものの決定的な証拠が出ず、時効を迎えて逮捕を免れた松倉だった――。

「時効によって逃げ切った犯罪者を裁くことは可能か、という問いが着想のきっかけです。ストーリーの特性上、捜査をある程度コントロールできる立場かつ、刑罰に意識的な人間を中心に据えなければいけない。検事を描くというのは自然な流れでした。
 ただ、警察もの、弁護士ものと比べると検察を描いた作品というのはどうしても少ない。これまで何作もミステリーを書いてきた自分自身、検事も捜査に加わっているというのは知識はあっても、その光景はなかなか想像できません。複数の元検察官に取材することでリアリティを持たせると同時に、検事の視点から見た捜査の過程を読者に違和感なく届けるということに苦心しました」

 捜査が進むにつれ、大田区の事件は松倉犯人説が難しくなっていく。しかし23年前の事件の犯人は松倉であると確信する最上はあくまでも松倉にこだわり続ける。事情を知らない若手検事・沖野は最上が指示する捜査方針に疑問を持ちながらも、尊敬する最上に認められたい気持ちもあって、松倉からの自供を取るべく、苛烈な追い込みをかける。その迫力ある描写と、自分がやっていることは本当に正しいのか葛藤しながらも前に進もうとする沖野の姿が読みどころのひとつだ。

「もっとも描きたかったのは最上と沖野、それぞれが信じる正義がぶつかった末に生じるものは何なのかということ。そのためにも沖野という人物がきちんと描けるかが肝になると思っていました。自分が信じるものには真っ直ぐでありながら、盲信しないバランス感覚を持った彼の人間性を上手く書けたことで、作品に手ごたえを感じましたね」

 やがて、2人は別々の道を歩むことになる。法律という、完全ではありえないもので戦わざるを得ない両者が取った行動の結末とは――。

「謎を作ってどんでん返しのような、意外性を狙うというよりは、どうしてもこの道を進まざるを得ないという人間のドラマをしっかり作りたいという思いでした。ミステリーとしての謎にはなっていないことでも、登場人物が真相を知ったときの衝撃や葛藤は、読者にも感じてもらえるように書いたつもりです」

検察側の罪人
雫井脩介・著

定価:1800円+税 発売日:2013年09月11日

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