本書で筆者が申しあげたかったメッセージは、次の一言に尽きます。

「『大阪都構想』など『論外』である」

 多くの人々にとって、筆者のこのメッセージは、意外かもしれません。しかしそう感ずる方々の多くは都構想の具体的中身をあまり知らず、漠たるイメージだけをお持ちではないでしょうか。ところが「都構想の中身」を詳しく知る専門家の多くは、当方と同趣旨の見解をお持ちなのです(例えば、筆者HP『大阪都構想を考える』をご覧ください http://satoshi-fujii.com/)。

 なぜ、論外なのか?

 設計図である「協定書」の中身をじっくりとみれば明らかな通り、「都構想」とは、「大阪市が廃止され、大阪市民が自治を失うだけの話」だからです。デメリットばかりでメリットなどほとんど見出せないのです。

 具体的にお話ししましょう。

 都構想の実現によって、大阪市という巨大な自治体が廃止され、代わりにつくられるのは、大阪市を五分割した「特別区」です。しかし、特別区長は大阪市長よりも格段に権限が弱く、特別区役所は大阪市役所よりも権限も財源も劣ることになります。

 大阪市が廃止されることで、大阪市民がどれだけの自治体財源を失うのかと言えば、年間約2200億円。

 これまでは、自分たちが選んだ市長や市議会議員を通して、この2200億円の使い道を決めてきたのですが、これからはそれが難しくなります。なぜなら、2200億円の使い道を決めるのは、大阪市長・大阪市議会よりも自分たちから「遠い」大阪府知事・大阪府議会になるからです。つまり都構想が実現すれば、大阪市民は自分たちの血税の使い道が今よりも「思い通りにならなくなる」のです。それは、大阪市民の行政サービスの劣化につながる恐れが大いにあります。

 ただし、大阪府と大阪市のいわゆる「二重行政」が解消され、行政が効率化し、大阪がより活性化する、ということであれば、「都構想にもメリットがある」と言えます。

 ところがそうはなりません。調べれば調べるほど、図書館も体育館も水道も、大阪府と大阪市の事業間の重複はそれほど問題を起こしているわけではなく、「二重行政」を解消しても、さして変わらないという実態が明らかになってきたからです。当初、「4000億円」とも言われていた「二重行政解消による財政効果」も、大阪市の推計で、「年間1億円」程度にまで減額されています。

 それどころではありません。

 むしろ大阪市の分割に伴い、導入時点で600億円、毎年ベースで少なくとも20億円のコストがかかると言われています。つまり、二重行政解消によりコストを節約できるどころか、大阪市の廃止により、余計にコストが発生しそうなのです。

 以上だけでも「都構想は論外だ」とも言えますが、これらはまだ序の口。

 何にもまして「論外」なのは、都構想が実現することで、大阪が「都心」を失い、コアをなくした大阪が「ダメ」になっていくということです。これまでキタやミナミといった大阪都心の都市計画を進めてきたのは、大阪市です。その大阪市から都市計画の権限と財源を奪いとれば、そうなるのも当然です。

 もちろん、論理的には、大阪市の代わりに大阪府が都心の都市計画を進めることも考えられます。しかし、実際には困難です。大阪市民が占めるのは、大阪府人口の3割にすぎません。そのため、大阪府の行政は、大阪市民の意向通りにはなりません。しかも、大阪府は巨額の借金を抱えています。その額は、大阪市の借金の1.4倍。6.4兆円にも達します。財政に余裕のない大阪府に、都心に集中投資をする力はありません。

 都心という核を失った大阪が衰退するとどうなるか。西日本全体がますます衰退し、東京一極集中がさらに加速するでしょう。

 ところで、首都直下地震はいつ起きてもおかしくないと言われています。もしそうした災害が東京を襲ったら、どうなるでしょうか。そんなとき、東京に援助の手を差し伸べ、代わりに日本を支えられるのは、大阪以外にありません。しかし、今以上に、東京一極集中が進み、大阪が衰退すれば、首都が災害に見舞われた時に、日本は二度と立ち上がれないほどの深刻なダメージを受けることになるでしょう。大阪は、日本全体にとってそれほど大事な街なのです。

 大阪市民を対象に「大阪都構想」への賛否を問う住民投票が2015年5月17日に行なわれます。

 確かに今の大阪は元気がありません。「今の大阪ではよくない」と多くの人が感じています。「大阪都構想」も、この沈滞ムードを吹き飛ばすための“改革”として受けとられているようです。

 しかし、住民投票で問われるのは、「都構想についての漠然としたイメージ」ではなく、「都構想の設計図である協定書」への賛否です。

 賛否の判断の前に、まず「都構想の中身」を多くの方に知っていただきたい、という思いから本書を執筆しました。

 賛成派も、反対派も、まず本書を手に取っていただければ幸甚です。

(※本稿の筆者の見解は、筆者がかかわる如何なる組織の見解とも無関係なものです)