書評

『アンダー・ザ・ドーム』解説

文: 吉野 仁 (文芸評論家)

『アンダー・ザ・ドーム』 (スティーヴン・キング 著 白石朗 訳)

 さて、あらためて『アンダー・ザ・ドーム』の冒頭部分をふりかえってみよう。

 アメリカ東部のメイン州、人口が二千人ほどの小さな町チェスターズミルが、とつぜん目に見えない障壁に囲い込まれた。その瞬間に、空を飛んでいた飛行機や鳥、道を走っていた車は、その壁に激突した。なんのまえぶれもなく現れた〈ドーム〉は、無色透明で厚みもなく、地上一万メートルを超えてそびえ、すっぽりと町を覆ってしまった。わずかの空気や水などを通すようだが、銃弾ばかりかミサイルも歯がたたず、命中しても穴があくことはない。

 この〈ドーム〉出現による最初の犠牲者は、セネカV型機に乗り訓練飛行をしていた女性と訓練教官。町の境界にあたる州道一一九号線にさしかかったとき、出現した〈ドーム〉に破壊された。同時に地上の同じ付近にいた小動物のウッドチャックもまたまっぷたつに切断されたのだ。それは、目に見えないギロチンの刃が天から降ってきたかのようだった。

 まずは、大空を飛ぶ飛行機に乗る男女、および地上を走る生き物からの視点から、〈ドーム〉出現の瞬間を描いている。鳥瞰と虫瞰を交互においた描写は、さながら大作ハリウッド映画のオープニングのようだ。

 さらに、この飛行機事故を目撃したのが、元アメリカ軍兵士でいまは食堂のコックをしているバービーことデイル・バーバラだった。彼はもともと町の住人ではなくよそ者である。ある諍いが元で町から出ていこうとしたとき、現場に居合わせたのだ。バービーは、雨あられと降ってくる飛行機の破片から必死で逃げようとした。作者は、こうして主要登場人物の視点から、とてつもない異常事態であることを読者へ示していく。

 その後もトラクターをはじめ、シボレー、メルセデスといった乗用車、パルプ材トラックなど、次々と目に見えない壁に衝突していくショッキングな場面が続く。

 だが、キングは〈ドーム〉出現による“一連の同時多発カス事態”を詳細に描きながら、その間へ「ジュニアとアンジー」という章をはさんでいる。特別警察官のジュニア・レニーは、食堂のウエイトレスであるアンジーへ激しい暴力をふるう。〈ドーム〉出現を機に町の腐敗した暗部もまた表に噴出していくのだ。その最初のシーンがここに描かれている。そもそもバービーが町を去ろうとしたのも、ジュニアとの喧嘩が原因だった。

 ファンならば説明不要だろうが、本作はキングがもっとも得意とするホラーの形式を基本としている。すなわち、スモールタウンに襲いかかる恐怖、外界から隔離され荒廃した町、屋敷、ホテル、鉱山などに閉じ込められ、逃げることのできないまま、理不尽な暴力や悪魔のごとき敵と闘う物語である。特殊な能力を持つ子どもがその悪夢と対決する作品も少なくない。

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アンダー・ザ・ドーム 1スティーヴン・キング 白石朗訳

定価:本体810円+税発売日:2013年10月10日

アンダー・ザ・ドーム 2スティーヴン・キング 白石朗訳

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アンダー・ザ・ドーム 3スティーヴン・キング 白石朗訳

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