下村 今の作業着って実はすごいお洒落なんですよ。モデルも外人さんだったりする。でも、三浦さんが多田に着せたいのはそんなイメージじゃなくて、そのへんの国道沿いの店で買ったような服を考えているんじゃないかと思って描きました。
三浦 なるほど、それがこの絵に。便利軒の内部とかも、下村さんが描いた絵でまた新しいイメージが立ち上がってきたりしました。
下村 そうだと嬉しいですね。最初読んだときに、一番街が気になったんです。おそらくこの、街の造型に相当苦心して書かれてるはずだと思って。扉絵ですからあまり出せなかったんですけど、もし本文中に挿絵があるんだったら、イメージに近い駅を想定して写真撮りに行かなきゃ、と思っていたんですよ。
三浦 まあ、そうでしたか。挿絵も描いていただきたかったですね。扉絵を見ていても、少ない背景の中に、小説内で書いた街の感じを最大限に出してくださっていることがすごくわかって、もう胸キュンと思ってました。キャラクターでいえば、前髪を結ってる行天の絵が来たときは、「これ~、この通り!」、「いつの間に私の脳内を覗いたの、下村さんは」と(笑)。毎回どの場面を描くかについて、編集部から指定はあったんですか。
下村 いえ、全然なかったです。一回目は多田と行天両方を出さなきゃというんで、モチーフだけを組み合わせたかたちになって。でも街を入れようと思っても、二人描いちゃうとスペース的に入る余地がない。あと印象的な登場人物が多かったので、毎回今度はほかのキャラクターと片方のキャラを組み合わせて二人、とか思いながら、いざ絵にしようと思うと、ほとんど多田・行天の単品か二人の場面しか出てこなかったですね。
三浦 最終章では、登場人物総出演のイラストを描いてくださって。これがまた感涙ものでした。
下村 最終回は全員、ほとんど入れられたなってほっとしました。ゲラで読んでイラストを起こすときには、字面を追っかけてはいるんですけど、頭の中で、何着てるんだろう、どういう髪形してるんだろうという疑問が、物語と二重写しになってしまってちゃんと読めないんです。
三浦 私は作品の中で人物の外見描写をあまりしないので、描いていただくのにはちょっと不親切な設定になっていましたね。
下村 設定を細かくなさる方とすっ飛ばす方と、ほんと二手に分かれますね。男の人の描写の場合、髪形すら出てこないことも多いんです。長ければ「長い髪」と書くと思うんですが、短いときは当然のように書かれない。どの程度の短さ? といつも思うんですよ。
三浦 つまめるぐらいとか、そういう感じを知りたいわけですか。
下村 刈り上げているのか、耳にかかるぐらいあるのかとか、そういう細かい設定が絵にするときに必要なので、小説に絵をつけるときは作者の方に「落書き、横に付けてください」って心の中で思ってるんです。
三浦 そこまで真剣にキャラクターのイメージを考えてくださる方にお願いできて、本当によかったです。その辺りは全部お任せのつもりでした。私、小説書いてるときにあまりキャラクターの外見は思い浮かんでないんですよ。読んだ人がそれぞれ想像してくださればいいや、ぐらいのものなんです。
下村 そうですか、じゃ漫画とは風土が違いますね。
三浦 そうですね。
下村 漫画だとどうしてもキャラクター・デザインが先に必要だから、何を着せるかとか、どういう髪形にするかとか、それをまず詳しく考えるんです。髪形なんかは、やっぱり本を買ってきて今風のものを調べたりしないと大変。
三浦 ああ、服もそうですよね。
下村 さすがに想像力だけですと、限界ありますから。
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