- 2015.09.29
- 書評
「幻想」シリーズの堀川アサコ
「予言村」シリーズも快進撃!
文:藤田 香織 (書評家)
『予言村の同窓会』 (堀川アサコ 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
というわけで、前作からの読者の頭の中には、実際には見たこともない「こよみ村」の様子が既になんとなく思い描かれていると思われますが、もちろん未読でも無問題。こよみ村から隣接する竜胆市にも舞台を広げつつ、そこに暮らす人々の姿を更に鮮明に映していく本書は、また違った角度から村を見せてくれます。
第一話「恋愛ジャック!」の季節は、前作からふた月が過ぎた十月。四月の村長選挙で育雄とその座を争った十文字丈太郎が、下手の横好きそのもののカラオケを披露し脱力ムード漂うこよみ村中学同窓会会場で、突然、場の空気を一変させる事態が発生します。村の変り者として知られる片倉和夫が、ゴルフバッグから猟銃を取り出し発砲。続いて村役場に勤務している水野香澄が、思いを寄せる上司の大友大輝との結婚を一方的に宣言し、会場にはなにやら不穏な気配が漂っていく。いわば、老若男女多くの村民たちが集った同窓会が、猟銃を持った男と理解不能な言葉を発する女にジャックされたわけで、となれば、よもやこの先、陰惨な展開が待っているのでは、と身構える人もいるでしょう。しかし、あにはからんや。読み終えたときには、まさかこんな結末を迎えるとは! と、驚きつつも、気がつけば頬が弛んでいるはず。世の中に「驚愕の結末!」と評される小説は幾多ありますが、個人的に「えーっ!!」と口に出してしまうほど驚いたのは実に久しぶり。猟銃を手にした片倉の肩を、ポンポンと叩いて「お疲れ……」と声をかけたくなったほど。
そうした意外性は、この後に続く「心霊写真始末記」、「B級民俗学同好会」、「夕方のシンデレラ」でも体感できるのですが、それは驚愕クラスの驚きだけでもなければ、各話にひとつとも限らないのがまたニクイ。実際、先の「恋愛ジャック!」で私は、結末に至る以前にも、何回も「えーっ!?」と心の中で叫びました(主に香澄の言動に。余談ですが、香澄は恋敵のゆず子や風美より、実はずっと強かな女だと思う!)。それは他の三話でも同様で、著者である堀川アサコさんは、サプライズ(日本では嬉しいビックリ計画!的な意味で使われていますが、決してそれだけではありません)を、物語のちょっとした香りづけとしても、決めてのひと振りとしても、巧みに使いこなしてしまう。
更に、本書では「恋心」という各話共通のベースを用いながら、ジャンルも味わいも異なる四つの物語を紡いでみせるのです。作中で描かれるその恋を、苦いと思うか、甘いと思うか、はたまた刺激的でスパイシィだと感じるか。いずれにしても、物語の根底を支えるこのベース作りにも、堀川さんの心意気が感じられるはず。これから本文を読む、という方もいらっしゃると思うので、これ以上詳しくは触れませんが、作者が異なるアンソロジーでもないのに、これほど趣の異なる物語を一冊の本で読めるのは滅多にないこと。一話読み終える毎に、次はなにが出るかな? と、期待感が増し、ひとつひとつ色も味も違うなかから、だんだん自分の好みが分かってくる。昔は嫌いだった味が、思いがけず好きになっていたと気付くこともあるでしょう(ハッカ味みたいに)。
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