- 2015.09.29
- 書評
「幻想」シリーズの堀川アサコ
「予言村」シリーズも快進撃!
文:藤田 香織 (書評家)
『予言村の同窓会』 (堀川アサコ 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
もうひとつ。前作からの変化にも触れておきます。『予言村の転校生』は、収録された五話は、すべてこよみ村にやって来た奈央を中心に描かれていました。けれど本書では、もちろん奈央も大いに活躍するけれど、物語の核となる人物がそれぞれ変わっていきます。奈央が名探偵さながらに同窓会ジャックの結末を見ぬいてからの第二話以降、前話でチラリと顔を覗かせた登場人物がリレー形式で重要な役割を担っていく。誰が、どんな役を任されるのか。ここにも、次はなに(誰)が出るかな? という予想の楽しさがあるのです。
そうしたなかで特に注目して欲しいのは、最終話の「夕方のシンデレラ」。三話目の「B級民俗学同好会」では、かろうじて存在が感じられた奈央ですが、「夕方のシンデレラ」では名前さえ出て来ません。しかも舞台は竜胆市で、こよみ村とも無関係。前三作とは筆致も違うように感じます。読みながら、これはなにを意味しているのか、と、そこはかとなく違和感や疑問を抱く読者もいるかもしれません。私は、最後まで読み終えたとき自分なりにある推測を立てたのですが、それが正解かどうかは現段階では判らない。シリーズの次作で明らかになる(個人的には「夕方のシンデレラ」が人気を呼び、作者が竜胆市在住ということで、こよみ村でも話題沸騰!的なエピソード希望!)ことを期待していますが、予言村シリーズには、まだまだほかにも、気がかりなことが山積み。
微笑ましくももどかしい、奈央と溝江麒麟の関係に進展はあるのか。竜胆市とこよみ村の合併問題はどうなるのか。嫁いびりを義務と心得た湯木家の三人の大叔母様たちが、このまま大人しくしているとは思えないし、憎み切れない敵役、十文字丈太郎の動向も気になります。なによりも「予言暦」には、こよみ村の行く末がどう記されているのか。早くも次作が待ち遠しくてなりません。
そして最後に。少しずつ色を変え、形を変え、味を変え、読者を楽しませる心配りがたっぷり感じられる、お得で贅沢な予言村ドロップスで堀川作品の魅力に開眼した方は、ぜひここから、他の作品にも手を伸ばしてみて下さい。
二〇〇六年のデビュー以来、「幻想」シリーズのヒットで注目を集めていますが、今年は七月末の現在までにも既に三冊の単行本が刊行されています。十四歳の美少女が、藩の窮地を救うため、とんでもない命令に奔走する『大奥の座敷童子』(二〇一五年三月/講談社)。あとがきで堀川さんが〈わたしの人生をギュッと絞った汁気たっぷりの小説〉と語る『竜宮電車』(同六月/徳間書店)。現時点での最新作である『おちゃっぴい 大江戸八百八』(同七月/講談社)では、江戸時代の「恋心」に、本書とはまた違った切なさを感じられるはず。
来年、デビュー十周年を迎え、ますます「旨味」を熟成させていく作家・堀川アサコが、みなさんと「長い付き合い」になることを、心から祈っています。
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