- 2018.04.24
- 書評
【映画原作】『こんな夜更けにバナナかよ』山田太一さんによる文庫解説
文:山田 太一 (脚本家)
『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』 (渡辺一史 著)
私との対談で渡辺さんはこういっている。
「尊厳死を認める社会的な背景には『自分のことが自分でできないような生き方には、尊厳がない』とか『家族に迷惑をかけたくない』とか『ウンチやオシッコを人にとってもらうなんて情けない』とか、そういう些細な価値観に支配されている部分がとても大きいと思うんです。でも『人に迷惑をかけない生き方』が、じゃあ尊厳のある生き方なのかというと、ぼくは鹿野さんを見ていたからでしょうけど、とてもそうは言い切れないという気がするんです」(「MOKU」2005年6月号)
この本を読む前なら、私はすぐ反論しただろう。ベッドで動けない人間にとって、家族や周囲の人々に迷惑をかけたくないという思いやウンチやオシッコを人にとってもらうことの情けなさが、どうして些細なことといえるのか、と。それを気にしないで他になにがあるのか、と。
渡辺さんも、すぐこういっている。
「たぶん鹿野さんと出会う以前であれば、ぼくも『尊厳死を望む』とすぐ考えてしまったんでしょうけど」(同前)と。
そうなのである。たぶん多くの人が、あとは尊厳死を望む以外になにをすることがあるだろうと追いつめられたような地点にいて、いやいやまだいくらでも先があるぞと鹿野さんは生き続けたのである。
筋ジストロフィーという病気が進んで、動くのは両手の指がほんの少しだけという状態である。人の手を借りなくては、ほとんどすべてのことができない。人に迷惑をかけることが尊厳を損うことだとしたら、すぐ死んだ方がいいということになってしまう。
高齢者の尊厳死と四十歳の鹿野さんとは事情がちがうといえるかもしれない。しかし、身体の不自由さは同じか、あるいは鹿野さんの方がキツイかもしれない。死が寸前にあるということでも両者に大きな差はないのではないだろうか。
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