- 2018.04.24
- 書評
【映画原作】『こんな夜更けにバナナかよ』山田太一さんによる文庫解説
文:山田 太一 (脚本家)
『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』 (渡辺一史 著)
※文庫刊行時の記事(2013/07/25公開)です。
ひとりの進行性重度身体障害の男がいた。
渡辺一史さんがこの本を書いている大半の日々では、まだいきいきと生きていた人だった。
その鹿野靖明さんと、亡くなるまでに関わった多くのボランティアの人たちとの物語である。
と書くと、ああよくあるやつね、と内容の見当がついてしまうような気がする人もいるかもしれない。それは間違いです。これはまったく、よくある本ではない。凄い本です。めったにない本。多くの通念をゆさぶり、人が人と生きることの可能性に、思いがけない切り口で深入りして行く見事な本です。
もう八年ほど前のことになるけれど、私はこの本をはじめて読んで敬服して対談の相手をして貰ったことがある。本が出て二年ほどたっていたけれど、まだ渡辺さんは三十代だった。その時の話題に、「尊厳死」ということが出て来た。それは私がすでに七十代だったせいもある。
「尊厳死」を選ぶということは主として老人の覚悟として語られる生き方で、もはやベッドから動けず、人の手を借りなければ一日も生きていられない状態になった時には延命をのぞまないという意志である。しかし、その時にはそれを伝える体力や判断力を失っているかもしれないから、あらかじめその意志を書き残しておくということでもある。
私は自分もそうするだろうと思っていた。
書き残してはいないが、家族との日々の雑談で「あそこまでして生きていたくないなあ」というようなことをいったりして、それとなく思いは伝わっているような気持でいた。そして今でも高齢者については、他の選択はないような考えでいるのだけれど、この本を読むと、私はまだまだ人が生きているということについて浅薄なのかもしれないと立止ってしまうのだ。
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