
──なぜ、そんなに多くのオージーが来るのでしょうか。
佐々木 オージーにしてみると、時差がない、雪はいいのに寒くない、というのが魅力なんですね。ニュージーランドの高山でも雪は降るけど、とても寒いそうです。ニセコは暖かいのに、毎日雪が降ってパウダー・スノーを滑ることができます。
──オージー資本の開発がなされる一方で、それを面白く思わない現地の不動産業者との確執がこの小説で描かれてますが、このような事例は実際にあったのでしょうか。
佐々木 確執はあると思いますが、実際に起きたことを小説にしているわけではありません。いろいろな要素を織り込んで、物語にしていますから。
──表題作の「廃墟に乞う」は、夕張を彷彿(ほうふつ)とさせる街が舞台です。極貧の中で育った加害者ですが、その母親は売春をしていたという背景があります。実に目を引くタイトルだと思いますが、どのような思いが込められているのでしょうか。
佐々木 タイトルは早くから思いついたんですね。何となく、スッと降りて来たんです。このシリーズの中で、夕張の風景は書いておきたいと思っていました。見捨てられた炭住街があり、ダムがあり、発電所も取り壊されようとしている街です。この風景と、釧路で実際に起きた事件が混ざり合ってこのような小説になりました。実際の事件の犯人も本当に貧しい環境で育ってきました。永山則夫を思わせる極貧ぶりです。その母親が、石炭拾いをしていたと聞いて、物語が固まりました。ラストシーンも書くときに決まってました。仙道にとって、試練ともいえる厳しいラストシーンですね。
──どのようなラストになるかは、是非小説を読んでいただきたいと思います。「兄の想い」は北海道の漁村が舞台。漁師町だけが持つ独特の雰囲気が伝わってきます。潮風に晒(さら)され続けたような、ザラリとした感触が残る小説です。
佐々木 漁師町は、酪農の町と違って、不漁・豊漁で町の雰囲気が変わってしまう。豊漁のときは消費生活も派手になるし、不漁が続くと、みんなしゅんとしてしまう。酪農の町は一年間の収入が計算できるので、消費生活が非常に堅実なんですが、漁師町というのは違うんですね。遊ぶときは無茶苦茶派手に遊ぶ。そういう町にはドラマがありますからね。また、漁師たちが営んでいる組合、仕事のシステムというのも、あまり読んだことがなかった。ならば、きちんと書いてみようと思ったんです。
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