書評

メディチ家、ブルボン王朝、ナチス・ドイツ……。組織の命運を握った帳簿とは

文: 前川 修満 (公認会計士・税理士)

『帳簿の世界史』 (ジェイコブ・ソール 著/村井章子 訳)

 マザランの推挙によってフランスの財務総監となったコルベールは、ブルボン王朝の財務管理を強化し、国富を莫大にし、フランスに絶頂期をもたらす。

 彼は、しばしば、国王・ルイ14世に対して「オランダなどとは戦争をしないように」と進言していた。戦争をすると、せっかく蓄えた国富が空っぽになってしまう。その怖さを、誰よりも深く感じていたのだ。

 だが、コルベールが1683年に他界すると、財政面から戦争に異を唱える者がいなくなり、1688年~1697年のファルツ戦争、1701年~1714年のスペイン継承戦争などによって、フランスの財政は悪化してゆく。こうして、会計情報を省みなくなったブルボン王朝は財政面で破滅へと突き進んで行くのだった。

 ところで、本書の234ページには、1781年にネッケル財務長官によって刊行された「国王への会計報告」に掲載されたブルボン王朝の収支データが記されている。

項目 金額(万リーブル)
経常収入 26,415
経常支出 25,395
差額 1,020

  ブルボン王朝の経常収入と経常支出の差額は1,020万リーブル(黒字)となっている。しかし、この会計報告には、軍事費など5,000万リーブル以上の支出が故意に除外されていた。つまり、当時のブルボン王朝の収支は、正確には3,980万リーブル以上の赤字だったのだ。

 本書には、経常支出の明細も抜粋されている。それをみると、ブルボン王朝の財政が恐ろしいくらいに乱脈を極めていたことがわかる。

項目 金額(万リーブル)
兵士への給与 6,520
宮廷費用・王室費 2,570
アルトワ直轄領維持費 800
道路・橋梁建設費 500
貧民救済費 90
王立図書館維持費 8

 最大の支出項目は「兵士への給与」であり、これが6,520万リーブルもある。「兵士への給与」は、軍事にかかる項目である。戦争をするから、こんなにも巨額の人件費が必要になるのだ。

 また上述したように、この会計報告では6,520万リーブルの「兵士への給与」が経常支出に計上されているものの、「兵士への給与」以外の軍事費の5,000万リーブルが経常支出より除外されていた。軍事費の一部(兵士への給与)を経常支出に含めるのであれば、それ以外の軍事費の5,000万リーブルをも経常支出に含めるべきなのだ。そして、赤字の実態を正しく表示すべきであったのだ。

 とはいえ、たとえ正確さに欠けたとしても、国家の会計データが、刊行物によって民衆に公開されたことは、世界史上初であり、画期的なことであった。そういう点で、私は、国家財政の公開を断行したネッケル財務長官の決断に頭が下がる思いである。

 ところで、このデータがフランスの民衆に公開されたとき、フランス民衆は戸惑ったはずだ。なにしろ、国家の財政を国民が目にすることなど前代未聞なのだから。

 しかし、その数値をみてしばらくたったあと、フランスの民衆はこう思ったにちがいない。「デタラメな出費を続ける王様たちこそ、フランス社会を蝕む元凶である」と。

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帳簿の世界史
ジェイコブ・ソール・著/村井章子・訳

定価:本体1,950円+税 発売日:2015年04月08日

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