ジェームズ・キャグニー、ケイリー・グラント、クリント・イーストウッドといった大スターに対する的確な批評が述べられるのはいうまでもない。その合間に『加藤ローサの足、藤田まことの急逝』とか『仲里依紗(なかりいさ)における白と黒』とか『小悪魔代表=フランソワーズ・アルヌール』とかいった表題のエッセイが出てくると、私はふたたびにやりとしてしまう。印象的なのは、こんな書き方。
《ドラマのラストで死んでゆく老人を踏みつづける加藤ローサを見て、あ、これは適役だったのだ、とひざを叩いた。無表情に老人の顔に足をのせている少女を演じられる女優はそうはいない。たまたま、ぴったり合ったのだといわれれば、それまでだが、故谷崎潤一郎がこの場面を観たら満足するだろうな、とぼくは思った》(『加藤ローサの足、藤田まことの急逝』)
眼ざとい人だな、と私は感心した。加藤ローサがイタリア系の美少女で、サッカーの松井大輔選手と結婚して東欧に引っ越したことぐらいなら私も知っていたが、谷崎の短篇『富美子(ふみこ)の足』のドラマ版に出たことは知らなかった。だが小林さんは、冷やかし半分の姿勢などではなく、かなり気合を入れてこの女優の魅力を語っている。しかもどうやら、一九八五年生まれの加藤ローサは、一九三一年生まれのフランソワーズ・アルヌールと地続きの部分があるようだ。
《そもそもアルヌールは、日本的な美人ではなく、小柄で細く、顔が小さく、鼻の先が生意気にツンとしているのがよろしい》(『小悪魔代表=フランソワーズ・アルヌール』)
ほら、加藤ローサと共通点があるでしょ。やはり、小林さんの好みには年季が入っている。五十年以上の時間をひょいとまたいで、アルヌールと加藤ローサを結びつけてしまう体質が、私には面白い。いや、《〈映画は女優で観る〉と早くから宣言して、実行している》(『この三人――旬<しゅん>の若手女優たち』)小林さんであってみれば、こうした品定めはごく自然に行われてしまうのかもしれない。さすが、好事家。
伸びる女優、消える女優
発売日:2014年02月28日
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