――ミステリ、冒険小説の旗手として大活躍の月村さんですが、今後はどんな作品を読ませて頂けるでしょうか。
月村 具体的には、『追想の探偵』という新連載を「小説推理」誌で始めるところです。本格ミステリのサブジャンルである〈日常の謎〉に対して、〈日常のハードボイルド〉という概念を思いつきました。近年、ミステリ界ではハードボイルド派が圧倒的に少なくなっているので、ハードボイルド派からのカウンターになればいいなと。また、8月から活劇魂あふれる時代小説を某誌で始める予定です。
私は「大衆文芸」「大衆娯楽」の歴史と現状に対してとても自覚的で、ことに日本では書き手の少なくなったハードボイルド、冒険小説の本来的な面白さをなんとか伝えていきたいと思っています。まず王道あってのエンターテインメントであると考えていますので。近年この王道があまりにもないがしろにされた状態が続いた結果、「エンターテインメント」の定義を見失っている人も多いように感じます。それゆえに王道の再構築が急務ではないかと考えたのです。
もちろん他にもやりたいことはいろいろあります。作家を続けていると日々刻々と自分を取り巻く局面が変わっていくのを感じます。作家としての自分の居場所が急速に変わっていくと言ってもいいかもしれません。もともと強烈に書きたいことがあるから作家になるのですが、それを書いたらやることがなくなるかというとそんなことはなくて、書けば書くほど、書きたいことが広がって行くんです。ジャンル、モチーフは言うに及ばず、いつかは自分の人生や幼少期、青年期のことなども書いてみたいと思っています。どういう書き方が相応しいかは素材によって違いますし文体も変わりますから、それは私小説のような形になるかもしれません。少しずつでも自分の幅を広げる努力を続け、実現していけたらと考えているところです。
――純文学にも興味をもたれているのでしょうか。
月村 本来文学とは全てがエンターテインメントのはずでした。読者がその本を読んで泣くのか笑うのか怒るのかは分かりませんが、読者が何らかのエモーションを得るのが読書というものです。知識を得るだけなら、専門書か学術書を読めばいい。チャールズ・ディケンズやジェーン・オースティンは欧米では主流文学、日本では純文学に分類されるのでしょうが、いつの時代に読んでも圧倒的に面白い。優れた小説に純文学もエンタメもありません。自分も枠にとらわれない面白い作品を書き続けられたらと思っています。
――ありがとうございました! これから『ガンルージュ』を読む読者の方々に向けて、メッセージを頂けますか。
月村 実は、続編の設定も漠然とですが考えています(笑)。いつかそれを発表できるようになればいいなと思っています。『ガンルージュ』は、私の持てる技術をありったけ投入した、あなたのためのエンターテインメントです。アクション、サスペンス、興奮の全ての要素が入っています。手に汗を握りつつ、泣いて笑って頂けたら嬉しいです。
本書は「別冊文藝春秋」317号より連載スタート。
その時の月村さんの記事がこちらで読めます。
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