羽衣伝説の話から始めよう。日本各地にある伝説だ。大筋は、地上に降りた天女が羽衣を盗られ、天に帰れなくなるというものだ。各地によって内容に差異があるのだが、大別すると、最終的に天女が天に帰る話と、帰れない話に分けられる。そして私は、この羽衣伝説のことを考えると、つい「佐渡の羽衣伝説は血腥(ちなまぐさ)いぜ」と思ってしまうのだ。月村了衛の『コルトM1847羽衣』を読んでしまったからだろう。羽衣伝説にとっては、とんだとばっちりである。
本書は、「週刊文春」二〇一六年八月十一日・十八日合併号から一七年五月二十五日号にかけて連載。二〇一八年一月に文藝春秋から、単行本が刊行された。二〇一三年に講談社から刊行された『コルトM1851残月』の姉妹篇である。といっても直接的なストーリーの関係はない。『残月』は、ある人物から譲られたコルト社の拳銃“M1851”を持つ、江戸の暗黒街で生きる男の、破滅に至る道を描いた時代ノワールであった。それに対して『羽衣』は、舞台も主人公も一新。いや、ジャンルまで変えたといっていいだろう。なにしろ本書は、時代伝奇アクション小説なのである。
江戸後期の佐渡に、ひとりの女が現れた。名は、羽衣お炎。白無地の被衣(かつぎ)を頭から被り、コルト社のパーカッション式シングルアクションリボルバー“M1847”を背負っている。女渡世人の彼女は、薩摩藩江戸屋敷の御留守居役の三男で、将来を誓い合った青峰信三郎を捜し続けていた。四年前、謎の失踪を遂げた信三郎だが、なぜか無宿人の権三として、佐渡の金山送りになったらしい。信三郎を捜す旅の途中で、長崎の豪商・四海屋に気に入られたお炎は、異邦人のジョン・ヘンドリクスを師に銃の腕を磨き、新たな情報を得て佐渡に乗り込んだのである。
死んだという権三の墓を調べようとしたお炎は、何者かに襲われるも、M1847で撃ち倒す。信三郎の手掛かりとなる簪を持つ、軽業師のおみんと知り合い、これを乾分(こぶん)にした。だが佐渡の様子は、どうにもおかしい。金山で働く者たちから始まった邪教“オドロ様”信仰が、島に広がっているという(オドロ党と呼ばれる集団まで存在するのだ)。また、オドロ様の宮司だという蟬麻呂は、佐渡奉行に接近していた。さらに薩摩藩主・島津斉彬の密命を受けて十三人の藩士が脱藩し佐渡に潜入。いったい佐渡で何が起きているのか。そして地の底にいるというオドロ様とは……。四海屋の命によりやって来た、与四松たち“玄人”の協力を得て、お炎は巨大な陰謀の渦に飛び込んでいく。
-
『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。