SF版「池袋イン秋葉原」
石田 焦燥感というのは、どんな立場にあっても逃れようなくありますからね。だから、どうしても社会に出て働けないというんであれば、おたく人生を全うするのも悪くないんじゃないかなと。
五條 ここに出てくる子たちは、求める気持ちがすごくあるんだと思いますよ。小説の最後の言葉じゃないけれど、よい人生にはよい探索が必要なんですよ。
石田 ああ。あのスローガンは、ぼく、好きですね。ほんとに探すことだと思いますよ、生きるということは。人間って不思議だけど、探しているもの以外のものは見つけないからね。何かを探す、ということが大事なのかもしれないね。
ほんとに秋葉原にいるおたくの子たちは、いま何を探しているんだろうね。アニメのトレーディングカードを山のように買って、少女ゲームとかやって。
五條 でも、秋葉原にたむろしている子たちというのは幸せですよ。たむろする聖地があるから。
で、秋葉原にたむろしているおたくのなかの才能あるものは、世の中に出て行けることをみんな知っています。少なくともあそこは何もない砂漠じゃないんですよ。もしかしたらすごい鉱脈にあたるかもしれないことを、みんな知っているんですね。
石田 そうだね。ゲームとかアニメというソフト系のものに関していえば、秋葉原は原宿と一緒でスカウトされる地ですよね。
五條 そう。誘われる地だし、ビジネスも起こせる。あそこは決して不毛の地じゃない。
石田 そういうこと全体が、いまの日本の文化を表わしているんじゃないかと思いますよ。裏通りのカルチャーに案外力があって、世の中を動かしている。日本のマンガとかエンターテインメント関係の輸出額ってすごいものでしょう。何兆円とかいってますから。
五條 美少女エロゲーひとつをずーっと一生作っていく人でも、普通にビジネスやれる時代ですよ。ある種の希望の地といえます。
石田 多分、地方にいる人で、この小説を読んだら、ちょっといってみたいと思う子が出てくるよね。地方在住のおたくなんか、とくにそう。自分の身のまわりには、おたくを理解してくれる人なんて全然いないわけでしょう。そういう点では素晴らしい聖地という感じがするんじゃないかな。実際どんな感じなのか、読んだあとに秋葉原の街に、ちょっと遊びに来てほしいな。
でも、ほんとに不思議な小説になりましたね。小説って書いているときには、どこに目的があるのか本人にも分からなくて、謎のソフトを作っている感じでしょう。それでも仕上がって本という形になると、別の世界に連れて行く力を持つ。この小説はSF版「池袋イン秋葉原」みたいな、分類不能の世界になりました。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。