対談ではなくてインタビュー
もう一つ私が強く主張したのは、これは対談じゃなくてインタビューであると。現場では私が余計な質問をしたり、前置きが長かったりすることがあるだろうけど、まとめるときは私の発言は極力短くしてくださいと頼んだんです。それから、女優さんがホステスの対談などで、女優さんをカッコよく見せるまとめ方をすることが多いけど、背伸びしてると続かないから、私を持ち上げないでって言ったんです。
――それはいつ頃のことですか。
ほんとに初期の頃ですよ。それで、編集者が書く誌面のリードのところでも、なんも知らないアガワが聞いたら、こんなことまで話してくれました、というような形が定着するようになったんですね。
――阿川さんのキャラクターが見つかった?
そうです。それは編集部の力だと思います。
――ご自分では、対談をここまで長続きさせてきたコツはなんだと思われますか。
私はインタビュアーとして鋭く突っ込む力はないし、構成する力もないけれども、責務としてあるとすれば、お相手の話を一生懸命に聞いて、面白がるしかないだろうと。面白がることによって、相手が心を開いてくれることはあるかもしれないですから。だって、実情を明かせば、これは対談を始めた当初と何も変わらないんですが、知らないことばかりですもん。サッカーも柔道も野球も知らない、政治も経済も知らないでしょう。
――でも、何でもわかってますという顔したら、相手も喋ってくれませんよね。
失礼にならない最低限は勉強していかなきゃいけないけれど、無理して知ってるふりをしてもウソになりますからね。もう謙虚に出るしかないの。
――今はもう達人の余裕で対談に臨んでらっしゃる?
そんなことは全くないです。緊張して泣きそうになって、本気でもう帰りたいとか言ってます。始まる直前は「阿川佐和子のこの人に会いたくない」の心境ですよ(笑)。
――でも、サワコ流おしゃべり術があるとしたら、ある程度、これでいいんだと思えるようになった時期はありましたか。
それは、密かに自分だって、まあ、最初の頃から較べたらうまくなってるよな、という気持ちはないわけではないけれども。いや、こんな程度でいいんだと思ったときが危ないんじゃないかなあ。
――その初々しさが長続きの秘訣なんでしょうね。
だから今でも対談はだいたい二時間なんですが、話を聞いている途中で、こういうペースになっちゃっていいんだろうか、なんか大事なことを全然聞いていないんじゃないかとか、さっきのとこでもっと深く突っ込むべきだったんじゃないかとか、一回のインタビューで三回ぐらいあるんですよ、「ダメだダメだ、ああダメだ」って思うことが。
――へえ、そうなんですか。
あとは、やっぱりテレビでもそうだけれども、別にいい子ぶってるわけじゃないですけども、このゲストがいくら年下であろうとも私が心の中で敬意を払ってなかったら、それが質問のひとつひとつとかの反応に出ると思うんですね。
――それが巧まずしてできているところに、阿川さんの資質がある。品がいいというか、いくら自由に振舞っても矩(のり)を踰(こ)えないところまで、人格が陶冶(とうや)されていらっしゃる。
いやいや、そんなに立派なもんじゃござんせん。こんな話してて、来月クビになってたりして。
――やはり、阿川さんを凌ぐ聞き上手、おしゃべり上手がでてくるのは難しいですよ。入れ歯が落っこちるぐらいの年まで続けていただく以外にないんじゃないでしょうか(笑)。
(耳に手を当て身を乗り出して)「エーッ? なんか言ったかい?」なんて言いながらね。そのまま寝ちゃったりして(笑)。
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