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三十年間ずっと読んでもらえる理由は

三十年間ずっと読んでもらえる理由は

文:林 真理子

『「美」も「才」も うぬぼれ00s』 (林真理子 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・エッセイ

 連載が続いたこの三十年間、振り返ってみると、世の中がすごく悪い方向にいってると感じます。とくに、なにか事件を起こした人や企業を、日本中が一斉に非難するような空気。それにネットが加わって二乗にも三乗にもなっていく。前は、もっとちゃんと「きれいごと」を言う人がいて、一方に「そうは言っても人間って本音はこういうもんでしょ」っていう人がいたんです。でも最近は、きれいごとの意見がネットで叩かれるようになって、世の中が本音ばっかりでしょ。こういう同質圧力のエネルギーはすごく嫌な感じ。今の朝日新聞叩きもそうです。週刊文春も含めて一億総叩きになっていて、なんかやだなあって思ってます。

 社会の格差がどんどん広がっているのも、マズいですね。マネーゲームもひどくなってるし、このままだと、文春読んでるような、ややコンサバで良識的な読者の層が薄くなってしまうのではないかと心配です。私がこれだけ長く書いていられたのは、読者のおかげなんですから。

 三十年以上、いつも、このネタは書けるとかあの出来事はどう書こうかって考えるのが生活の一部になっていますし、日本でいちばん良質な読者を持つ週刊誌で書いているっていうのは私の誇りですから、やめてくださいと頼まれるまでは書き続けますよ。

 

 人に読んでもらえるいいエッセイって、まず見た目がおいしそうなんですよね。上手く言えませんけど、平仮名とカタカナ、漢字の配分かもしれない。それからユーモアを忘れない……そういうのはテクニックですね。

 なにより最初からずっと心がけているのは、自分の「目の高さ」を常に同じところに置くということ。ちょっとでも説教がましい言い方になりそうなときは注意しているし、人を批判するときは、同時に自分のことも振り返って批評するように、それはすっごく気をつけてます。

 仕事も遊びも夫も子どもも手にする「満艦飾の人生」を求めて努力してきましたけども、この「目の高さ」を保ち続けていられるのは、本業の小説をちゃんと書いているという自負があるからかもしれません。

 私は基本的に、いろんな人と、生きているということを肯定しているんです。もし来年死ぬとしても「いい人生だった、楽しかった」って思える。そういうのがやっぱりエッセイにも表れるんだと思います。

(語り下ろし・「あとがき」より)

「美」も「才」も うぬぼれ00s
林真理子・著

定価:本体620円+税 発売日:2014年12月04日

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