2011.06.20 インタビューほか

私の作品の中で、最も華やかでスケールの大きな恋愛小説です

「本の話」編集部

『天上紅蓮』 (渡辺淳一 著)

私の作品の中で、最も華やかでスケールの大きな恋愛小説です

――白河法皇と、その寵愛を一身に受けた璋子(たまこ)、二人の絢爛華麗な恋愛絵巻『天上紅蓮』が、いよいよ刊行されます。「文藝春秋」連載時から大きな反響があり、昨年の文藝春秋読者賞を受賞した本作は、これまで『失楽園』『シャトウ ルージュ』『愛の流刑地』など幾多の現代の恋愛文学を手がけてきた渡辺さんにとっては、平安朝を舞台にした初の歴史小説となりますね。

渡辺  そうなんです。私にとって大きな挑戦でした。ただ、平安朝の物語をいつか書きたい、とは以前から思っていましたが。

――戦国モノや江戸モノではなく、なぜ平安朝の物語だったのでしょう?

渡辺  戦国時代や江戸時代は、以前から「小説の舞台としてはあまり面白くない」と思っていました。というのは、身分制度が固定しているうえに男尊女卑で、常に男性優位で女性はただ従うだけ、という社会状況ですからね。恋して、愛して、恨んで、嫉妬して――といった感情を盛り込む恋愛小説というジャンルは、基本的には男女対等でなければ、本当の意味で書き込めない。その点では、平安時代の方が、男女が対等だったと思うのです。女の人もけっこう浮気していたようですし、たとえば『源氏物語』で紫の上は、光源氏をずっと拒み続けていましたよね(笑)。そんなこともあって、昔から平安朝に関する様々な史料や小説には目を通していたんです。ただ総じて、史料研究に傾きすぎた歴史書的なものが多くて、小説的な妙味がないなあ……と、思っていたとき、偶然手にとった角田文衛さんの『待賢門院璋子の生涯』(朝日選書)に引き込まれて……。

――白河法皇に愛され、その孫・鳥羽天皇の中宮となり、崇徳天皇の母となった待賢門院璋子。彼女に関する史料を精緻に読み解き、その波瀾の生涯を追った好著ですね。

渡辺  角田さんの執拗な調査力に触発されました。特に感心したのは、璋子の受胎期間に関する研究の部分です。皇子・顕仁(のちの崇徳天皇)の父親は誰なのか? という問題設定の下に、平安朝の女性の月経についても丹念に、学究的に調べあげておられます。その執念にはただただ圧倒されるばかりで、そこから浮かび上がってくるのは、璋子は白河法皇、鳥羽天皇と対等な恋愛をしていたのではないか、ということでした。この女性はすごいなあ、璋子を書いてみたいなあ――そう思って周辺の史料を集め、京都での取材を積み重ねたうえで、書きはじめたのです。

――まず読者は、法皇62歳、璋子14歳という「超年の差」愛に驚かされます。

渡辺  まあ、非倫理的=アンモラルといえばその通りです。でも、初めにモラルありきの恋愛なんて、本当の意味での恋愛ではない。現代でいう不倫が燃え上がるのは、そこに論理をこえた情愛があるからです。「こうあってはならない。こうあるべき」といった、社会通念に沿った恋愛なんて、恋でも愛でもない。その意味では、いちばんアンモラルな恋愛こそが、純愛を生みだすわけで。

天上紅蓮
渡辺 淳一・著

定価:1680円(税込) 発売日:2011年06月30日

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