赤瀬川 あそこに展示されてた、事故で壊れちゃったタービンの残骸。日本が一生懸命に産業立国しようとしている時に、頑張って作ったのに破裂しちゃって、納品先のスペインも困ったのに、三菱造船が必死になって原因究明して納品し直して、かえって関係が良くなったっていうエピソードも良かったけど……。
山下 その爆発しちゃったタービンが凄まじい迫力なんですよね。
赤瀬川 もう、芸術どころじゃない(笑)。
山下 芸術どころじゃないんだけど、やっぱり意図せざる芸術なんですね。これは原爆ドームにも通じるところがあります。
赤瀬川 ああ、そうですね。
山下 原爆ドームも決してあの状態を作ろうとして作ったものじゃないわけで、はなから作者の意図なんていうものを超えてしまっている。そこにぼくらは感動したんですね。それと同じで、まるっきり芸術を目的としていない工場とか実業でできたものってすごいなと感じたわけです。
南 実業と美術って一見、相反するものなんだけどね。
山下 ぼくたちは実業に美術の要素がもっと入ってほしいし、逆に美術にも実業の世界の発想が必要だと思うんです。
赤瀬川 実業と美術の関係性に知らんぷりするんじゃなくて、われわれがよく言ってるのはベンツ一台が五百万円として、この美術品は何ベンツかと……。
山下 展覧会で雪舟の絵の前にベンツのミニカーを百台置いて、「おお、百ベンツ」とか(笑)。
赤瀬川 やっぱり見る目が変わりますよね。
山下 それと逆もあって、工場にしろなんにしろ、美術を見る目で見ると実業のかなりの部分がほんとうに美しいんですね。
赤瀬川 普段は用途だけで見ているからわかんないんだけど、そのものだけをいきなり切り取って見たら、けっこうすごいものがいっぱいあります。
南 どこだったかなァ、民俗博物館に行ってアフリカとかオセアニアの先住民が作った道具を見たとき、すごくきれいなんで驚いたことがあった。毎日使うものをそんなにきれいにする必要はないはずなんだけど、やっぱり人間にはきれいなものを作りたいっていう本能があるんですね。
山下 縄文土器だってそうですよね。戦後になって岡本太郎が「縄文がいちばんすごいじゃないか」って言うまで、縄文土器は美術史の対象ではなかった。それまでの日本美術史は仏教伝来から始まっていたんですね。
赤瀬川 それは勇気の問題ですよね。太郎さんはすごい勇気のある人だった。
山下 というか、あの人は勇気を勇気とも思ってない。非常識な人(笑)。
南 外国育ちだからね。日本人としての常識がない(笑)。
山下 そういう意味では、いまわれわれが「車や時計、カメラのほうが美術よりすごいじゃないか」と言う意味はあるんじゃないでしょうか。
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