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ITを知る者だけが書ける21世紀の警察小説

ITを知る者だけが書ける21世紀の警察小説

「本の話」編集部

『ビッグデータ・コネクト』 (藤井太洋 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

――たしかに(笑)。スーパーハッカーをたくさん出したら、リアリティの問題以前に物語がご都合主義になってしまいます。

藤井 ミステリーでいう《ノックスの十戒》みたいにならないかなあと思ってるんです。あれに倣って最後は「中国ヤバいで片づけるな」で締めるのが夢です(笑)。

この十戒は、物語の面白さとも関わっていて、例えばパスワードが推測できてしまうとなると、物語のなかで誰かが推理しようとするわけですよね。あれはありえないというだけでなくて、面白くもないんです。たいてい、誕生日だったりとか娘の名前とかで。それではあまり物語として面白くならない。それよりは偽のATMを丸ごとつくってパスワードを盗むとか、そのほうが面白いですよね。

――今回、事件を解決した万田と武岱ですが、このコンビの活躍には続きがあるんでしょうか。

藤井 はい。続編では今回もすこしだけ出てくる中国と、日本の公安、これが大きな存在になります。『ビッグデータ・コネクト』よりも大きなかたちで、「国家」と「人間」の問題に迫っていきます。生活を成り立たせているITインフラのありようや、旧時代の世界にいるひとと、そうでないひととのギャップを浮き彫りにできる作品にしていこうと思っています。具体的には、現在のITインフラが決定的に後退する局面が訪れます。

――昭和の時代、松本清張さんらが社会や労働を書いて、それをぼくたちは「社会を書いてるから社会派だ」と思っていたわけですが、同じことをいま真っ当にやるとSF的になるのかもしれませんね。つまりこの作品は、21世紀の社会派ミステリーなのではと思うんですが。

藤井 私の小説のことをプロレタリア文学っていうひともいるんです(笑)。昔は“もっこ”を担いだり蟹の缶詰をつくったりしたんでしょうけど、いま、多くの労働者のかたがたはエクセルを方眼紙がわりにして作られたシートを、マウスで、カチ、カチってやりながら、埋めてたりするでしょう、サービス残業しながら。

一方で、例えば災害、土砂崩れなどが起きたりすると、ドローンを飛ばして地形を調査するようになっていて、ドローンを実際に使っている工務店さんなんかはたくさんある。農業についても、水耕農業なんかは知らない人からみればSFが描くような社会に見えてしまう可能性があります。そのなかに、何かすごい落とし穴があったりすると物語になるんですけど、なかなか現実に動いているテクノロジーってそんなに大きな穴はないもので(笑)。

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