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“破壊と創造”を貫き、人々に喜びを

“破壊と創造”を貫き、人々に喜びを

「オール讀物」編集部

シブサワ・コウ(株式会社コーエーテクモゲームス ゼネラルプロデューサー)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説 ,#趣味・実用

 ゲームソフト『信長の野望』を開発、累計九百万本以上を売り上げ、歴史シミュレーションゲームというジャンルを切り拓いた。大河ドラマ『真田丸』では、フル3DマップのCG技術を提供。戦国時代の勢力関係を分かりやすく表現した地図が話題を呼んでいる。競争が激しいゲーム業界で、三十年以上にわたってヒット作を生み出し続ける名クリエイターの哲学に迫る。

オール讀物 2016年5月号

 大河ドラマ『真田丸』にCG技術を提供したきっかけは、NHKの担当プロデューサーが『信長の野望』をプレイしていた方で、「群雄割拠の戦国時代の状況が一目でわかるには、『信長の野望』の地図表現が必要です」と言って下さったからでした。一九八三年発売の第一作以来、独自のマップを進化させてきましたが、それがお役に立ってとても嬉しいです。

 歴史シミュレーションゲームという発想が浮かんだのは、若い頃から愛読していた歴史小説の影響が大きいですね。足利一門の氏寺「鑁阿寺(ばんなじ)」など文化的なものが多い栃木県足利市で育ったせいか、子どものころから歴史に興味を持っていて、ありとあらゆる歴史小説を乱読しました。

 最初に読んだのは、司馬遼太郎の『国盗り物語』。教科書や参考書などには、織田信長や徳川家康が、何年にこんなことをしたという歴史事実は書かれていましたが、それだけでは人物像やストーリーは浮かび上がってこない。ところが司馬さんの歴史小説を読めば、戦国武将らが何を考え、何をしようとしてきたか、その志までが描かれている。小説の中では戦国武将が生きているんです。司馬さんをはじめ吉川英治さん、山岡荘八さんら、作家それぞれに描き方が違っていて、いろんな見方があることも興味深かった。特に『国盗り物語』で描かれた信長は魅力的でした。画期的な軍団の編成法を取り入れたり、新しい社会の秩序を作る――「破壊と創造」を繰り返しながら、前向きに生きる姿勢が好きでした。

 その信長が、天下統一の道半ば、四十九歳で本能寺で討たれます。歴史小説を愛する私はこんなことを考えました。信長に代わって自分が「野望」を実現できないか――。自分が信長だったら、数百の手勢で本能寺には滞在しない、数万の最強部隊を置いて、どんなことにも対応できるようにしていただろうな、と。歴史のイフは現実ではないですが、歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』では、それが実現できる。長きにわたってファンに愛されてきたのは、戦うという要素だけではなく、領国を経営する要素を入れたことで、プレイヤーが戦国時代の武将になりきって、「統一」という歴史を作り上げることに熱中できるからではないでしょうか。

 吉川英治の『三国志』にも魅了されました。吉川さんの描く諸葛孔明がたまらないんです。君主・劉備の亡き後、跡継ぎとなった劉禅を必死に支える姿勢。「出師の表」を記し、敬愛する劉備の大恩に報いようと「忠義」を重んじて志を実現していくのは、素晴らしい生き方です。『三国志』では、日本の戦国時代の兵法にはない計略の要素や、赤壁の戦いのように、きわめて不利な状況を覆す展開の描き方も、エンターテインメントとして素晴らしいと思いました。

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オール讀物 2016年5月号

特別定価:1,000円(税込) 発売日:2016年4月22日

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