企業の社長や組織のリーダーは、どんな本に出会い、影響を受けてきたのか。厳しい競争を勝ち抜いてきたビジネスマンの読書遍歴をたどり、その思考法に迫る「リーダーの愛読書」。第2回は「生演奏の感動をありのままに再現する」ことを追究し続けてきた音響メーカー、ボーズ株式会社の挽野元社長に話を聞いた。
大学院を修了後、日本ヒューレットパッカード(HP)に入社しました。せっかく海外資本の会社に入ったのだからと、海外勤務を希望し、フランス駐在中に出会ったのが、戸田光太郎さんの『欧州の路上で――異文化を知る旅』でした。「フランスニュースダイジェスト」という情報誌に、戸田さんがコラムを連載していたんです。初めての海外赴任で、周りに日本人がほとんどおらず、日々、“異文化と戦う”という状況のなかで、欧州で渡りあうことに慣れた戸田さんのコラムを読むと、気持ちがホッとしたんですね。そのうちの一つ、「知ったかぶりワイン通講座」は印象的でした。戸田さんが、ある天才シェフに「自分の無知を知られずにソムリエにワインを注文する方法はありますか」と聞くと、「この言葉を覚えてください。“ライト&フルーティー”」という答えが返ってきます。ワイン恐怖症の原因の一つは、値段だと。軽くて風味のあるワインは大抵、若い。若いワインは安価のため、バカ高いものは出てこないと、シェフはいうんです。欧州でワインを知ったかぶりするとろくなことはないですからね(笑)。この本は絶版で手に入りづらいかもしれないですが、隠れた名著だと思います。
このときの海外赴任の経験は、経営者としての考え方に、大きな影響をもたらしました。たとえば、日本の役所は何かを申請する際に、きちんとハンコを押していないとダメですよね。フランスでは交渉すれば必要な書類を忘れてもなんとかなるケースがある。目的にたどり着くには、いろんなやり方があるんです。
山崎豊子さんの『沈まぬ太陽』に出会ったのは、HP在職中に、コンパックという会社を吸収したときですね。私は、コンパックが主体となったPC部門に配属となり、HP出身者は仕事のやり方にとまどいながらも業務を進めていくしかないという状況があったんです。仕事が辛いときは読書をすると、気分転換になるし、心が落ち着きます。山崎さんの小説が好きだったということもあって、『沈まぬ太陽』を読み始めたんです。国民航空のエリートとして将来を嘱望された恩地元が、十年以上に渡って、アフリカ・カラチなどに左遷される。どれほど追い詰められても、恩地はストイックに戦うんですね。冗談で「カラチに飛ばされた恩地に比べれば、自分たちの悩みなんて大したことはないから、まだまだやれる」なんて言いながら、当時の部下にも薦めました(笑)。きちんと筋を通しながら働くことのカッコよさは未だに印象に残っていますね。
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2014.09.19特設サイト
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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