- 2008.11.20
- 書評
噂、伝聞一切なし。CIA六十年の記録
文:藤田 博司 (元共同通信記者、元上智大学教授)
『その誕生から今日まで CIA秘録』 (ティム・ワイナー 著/藤田博司・山田侑平・佐藤信行 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
昨年夏、この本の翻訳の話が持ちあがったとき、正直なところ、すぐには引き受けるのをためらった。なにしろ大冊である。原著は注、索引まで含めると七百ページ超。一人では途中で根負けしそうだった。
で、昔の職場の同僚二人に声をかけ、協力を得られることになった。ともにニュース取材でアメリカに在勤の経験もあり、事情に通じている。翻訳の手だれでもある
作業を始めるにあたって、注をどうするか、がちょっと問題になった。本文五百十四ページに対して注が百五十五ページある。注は本文より小さな活字で組まれているので、分量的には本文の三分の一に相当する。これだけの注をつけて、煩わしくはないか。読者が本当に読んでくれるだろうか。一般書として出すのなら、注は省いてもいいのではないか、とも思った。この種の硬い本でも翻訳では原著の注を省略することが多い。
ところが、編集者のほうが、注は残したいと言い出した。この本には資料的な価値がある、専門家にも読むに耐える本にしたい、そのためには注が必要だ、と。これはちょっと意外だった。出版社側は読みやすい本、売れる本、コストを抑えられる本を作りたいに違いない。そのためには煩雑な注は省きたいのではないか、と考えた訳者の側の、余計な気づかいだった。
本書の膨大な量の注は、伊達(だて)や酔狂の産物ではない。本文に描かれた六十年に及ぶアメリカ中央情報局(CIA)の歴史の、一つ一つの出来事や人物の発言、行動などはすべて記録に基づいており、その記録のありか、情報の出所を注として明示しているからである。
著者のティム・ワイナー(『ニューヨーク・タイムズ』記者)によれば、この本の土台になっているのは「主としてCIA、ホワイトハウス、国務省の公文書館から入手して目を通した五万点以上の文書。二千点を超えるアメリカの諜報担当官、兵士、外交官らのオーラル・ヒストリー(口述歴史記録)。一九八七年以降にCIA職員、元職員らと行った三〇〇本以上のインタビュー」だという。噂や伝聞の情報は排除し、匿名の証言も一切使わない。確実な資料と責任ある証言だけに基づいて紡いだ歴史だという点が、本書の最大の特徴である。
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