書評

リピートしたのは誰?

文: 黒田 研二 (ミステリ作家)

『リピート』 (乾くるみ 著)

 外部から断絶された空間で、次々と人が殺されていく「クローズド・サークル」や、一見なんの繋がりもないように見えた事件が、実は共存性を持っている「ミッシング・リンク」など、本格ミステリで頻繁に使われる題材を、乾くるみ流にぐにゃりとねじ曲げ、斬新にアレンジし直しているところが、実に心憎い。

 一筋縄ではいかないひねくれ具合は、デビュー作『Jの神話』(講談社)から一貫しており、それがこの著者の最大の魅力でもある。しかしそうであるが故に、マニアには受けても、それ以外の層にはなかなか認めてもらえなかったのも事実だ。

 ところが、本作はこれまでの乾作品とは、ずいぶんと雰囲気が異なっている。本格ミステリなど読んだことがないという読者でも、すんなり作品世界に入り込むことができ、かつその真相に素直に驚ける構造となっているのだ。正直、デビュー当時からの乾ファンである僕などは、彼がこのような万人受けする小説を書いたことに、もっとも驚いた。では、マニアには物足りないのかというと、まったくそんなことはなく、前代未聞の殺人鬼の正体に唖然とするに違いない。

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 乾くるみは、遅筆な作家として知られている。一九九八年にデビューして以降、昨年までの六年間に発表された作品はたったの五つしかない。それが今年は二作品――しかも、そのどちらもが傑作ときている。一体、なにが起こったのか、ぜひ本人を問いつめてみたいところだ。

 彼とは、同じ新人賞からデビューした縁もあって、ずいぶんと親しくさせてもらっている。早く新作が読みたい僕は、会うたびに「最近、仕事はしてるんですか?」としつこく尋ねていたのだが、返ってくるのは「いや、それがなかなか……」とはっきりしない答えばかりだった。

 それが昨年末、「ようやく新作を書き始めたよ」という返事が戻ってきた。「おお、ついに重い腰を上げたか」と喜んでいたら、それからわずか数ヵ月後に『イニシエーション・ラブ』が発売された。なんだなんだ? どうして、そんなにも速筆になったんだ? と驚いている暇もなく、次は『リピート』である。「今年の躍進はすごいですね。なにか心境の変化でもあったんですか?」と訊いても、本人は「いやあ、べつに……」とにやにやするばかり。

 うーん、ものすごく怪しい。絶対に、なにか秘密があるはずだ。

 あれこれ考え、はたと気がついた。

『リピート』には、世界から飢えをなくすためにバイオ食品の研究を続けている人物が登場する。彼は、少しでも早くバイオ食品を完成させたいがために、繰り返し過去へ戻りたいとガイドに申し出る。そうすれば、無限の時間を手に入れることができるからだ。

 あんなにも遅筆だった男が、矢継ぎ早にこれほどの傑作を発表できるはずがない。もしかすると、『リピート』は実話で、乾くるみはワームホールをくぐり抜け……と、そんな邪推を抱きたくもなってしまうのである。

リピート
乾くるみ・著

定価:本体780円+税 発売日:2007年11月09日

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