胡春ちゃんや伊藤さんが驚いたように、盲導犬が誕生するまでには長い道のりが必要です。まず、盲導犬に適する血統犬から盲導犬候補が選ばれ、パピーウォーカー(仔犬を育てるボランティア)の下で約八ヶ月間、人間は信頼できる相手だよ、と教え込まれます。そして訓練センターに行き、視覚障害者の目となって安全かつ快適に誘導できるよう、盲導犬訓練士から徹底的に訓練を受けます。いよいよ最後に訓練士が使用者との相性を見極めて、やっと盲導犬としての仕事がスタートするわけです。
「犬の寿命が人間よりもずっと短い、ということも胡春はこの本で初めて知ったようです。あとは、パピーウォーカーになりたいってしきりに言っていました(笑)。私は、愛情を注いで育てた犬とは絶対離れられないので、胡春と違って、パピーウォーカーにはなれそうにありませんけど(笑)。
子供の頃にこういった本を親子で一緒に読むことは、とても大切ですね。例えば、この本を通して盲導犬がどういう仕事をしているかが分かります。すると、バスの中で盲導犬を見かけても、犬は仕事中なんだから触っちゃいけない、といった基本的なことを学びます。また、自分にとって目が見えることは当り前だけれども、そうじゃない人もいるんだということを知る。見えない、ということはどういうことなのかを想像する……。本の読み聞かせをするときは、このように胡春と二人で一緒に考えながら話すことを心がけています」
こんなこともあります。伊藤さんがよく行くデパートでは、年二回盲導犬のデモンストレーションを行っているそうです。実はそのデモを行っているのがクイールの訓練士多和田さん。今年は仔犬の躾けについてのデモを行いました。そのデパートでは、買い物の支払いにクレジットカードを使用すると、自動的にいくらか盲導犬育成のために寄付されるシステムを、八年前から始めました。去年はその寄付によって、三頭の盲導犬が誕生。デモを行っている多和田さんは民間からの寄付についてこう言います。
「一人の一万円よりも、千人の十円にわたしは価値を見ます。多くの人々のサポートで、目の見えない人が盲導犬を使って外出できるようになることは、とても素晴らしいことだと思います。クイール効果で多くの人が盲導犬に関心を持つようになってくれたことを、とても嬉しく思います」
このように、『盲導犬クイールの一生』の大ヒットは社会的貢献も果たしました。
クイールは盲導犬として活躍した後、盲導犬が実際にどういった仕事をしているかを子供たちに肌で感じてもらうためのデモンストレーションをしに、多くの小学校を訪ねました。伊藤さんは、クイールを見ている小学生がみな生き生きとした表情をしている写真にとても惹かれたそうです。
「子供が学校で盲導犬を見たら、家に帰って親にそのことを話すでしょう。そうすると、子供から親へ、そしてさらにまた多くの人へ、盲導犬のことが伝わっていく。そうやって少しずつ輪が広がって、盲導犬の存在が知られていくのですね」
パピーウォーカーの仁井さんご夫婦、訓練士の多和田さん、パートナーの渡辺さんといった、本に登場する人たちの優しい表情が印象に残ったという伊藤さんと胡春ちゃん。単行本を読まれた方も、まだの方も、ぜひその優しさにこの文庫で触れてみませんか。
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