書評

あの日から五年

文: 森 健

「つなみ 5年後の子どもたちの作文集」

 そこで考えたのが、震災から五年だ。あの子たちならこの五年間をどう記すのか。彼らはどんな日々を送り、どんな思いを抱いてきたのだろう。そんな思いつきから、再び『つなみ』の子たちに声をかけてみた。

 あの年、幼稚園の年長だった女の子は小学五年になった。小学四年生だった男の子は中学三年生になり、この冬は高校受験の勉強に励んでいた。中学二年だった女の子は昨春高校を卒業して、地元の企業に就職していた。そして、「地元のために働きたい」と語っていた高一男子は、念願どおり土木の仕事について、地元のために汗を流していた。

 作文を書くにあたってお願いしたのはシンプルな方針だ。この五年間、自分の周囲でどんなことが起き、どのように暮らしてきたのか。そして五年後のいま、どんな感慨をもっているのか。そんな五年の日々を率直に綴ってもらったのが本作文集となった。

 作文を寄せてくれたのは岩手、宮城、福島の五十七人。ちょうど『完全版』の半数だった。事前の予想ではよくて三十人程度ではないかと想像していただけに、これだけ多くの子どもたちが参加してくれたのはうれしい驚きだった。下は九歳から、上は二十二歳。五年前、文字を書けず、絵だけだった子が漢字混じりのしっかりとした作文を書いたかと思えば、身体ばかり大きくなって文字の巧さはまるで五年前と変わらない悪ガキもいた。

 届いた作文を読んでみると、文字の巧拙と同様、作文の中身も――当然ながら――一様ではなかった。震災をバネとして、充実した学校生活を送っている子もいれば、あの日以来人生が一変し、いまなお苦闘を続けている子もいた。そして、多くの作文で自分が暮らす地域の変化が陰に陽に投影されていた。高台移転、防潮堤、帰還の問題……。そうした変化に対して子どもたちは自分なりの思いをもち、自身のこれからに活かそうとしていた。

 そして、そんな彼らの五年間の体験を読むことは、次の五年に向かって周囲が何をすべきかのヒントにもなるように思う。(二〇一六年二月)

(「はじめに」より)

つなみ 5年後の子どもたちの作文集文藝春秋編

発売日:2016年02月26日


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