土砂を積んだトラックの無数の往来。各地から来たボランティアによる瓦礫の清掃。馴染みの顔が揃った復興商店街のオープン。待ちかねた災害公営住宅への転居。伸びていく防潮堤と畑を埋めていく黒い除染廃棄物の山……。ぼんやり振り返ると、それらがいつのことだったか判然としなくなる。
あの日から五年。この間、被災地では多くの変化があった。
あの日被災した人たちは次々と移り変わる環境に自身を適応させながら、その後の日々を過ごしてきた。遅々として進まない“復興”に苛立ち、変わり果てた郷里に悲しみ、会えなくなった人やいくつもあったはずの選択肢に思いを馳せる。考えてみれば、五年の日々は生き抜くだけで、たいへんだったと想像される。
そんななか、彼らは何を見て、どう感じてきたのだろうと気になっていた。
作文集『つなみ』の子どもたちである。
あの年の四月から五月、筆者は宮城県名取市から岩手県大槌町に向かい、避難所などにいた子どもたちに作文を書いてもらうようお願いして回った。わずか一~二カ月前という記憶も生々しい時期に綴られたそれらの作文は、いずれも胸を締め付けられるような内容だった。それらをまとめたのが同年六月に刊行された『つなみ 被災地のこども80人の作文集』だった。そして翌二〇一二年には、複数地域に点在する福島の子どもたち三十人の作文も加えた『つなみ 被災地の子どもたちの作文集・完全版』を上梓した。
『つなみ』は十九万部という部数もさることながら、部数以上に広がりをもった作品だった。全国で行われる朗読会やイベントなどの使用許可依頼は国内だけで百件以上。数編の作文は小中学校の教科書や副読本にも採用された。版元を介さない交流にも及び、各地の読者が気に入った作文の子どもに直接支援を届けたり、学校やクラス単位で作文の子どもに感想文や贈り物を送るという交流も多数あった。変わったところでは、某刑務所にいた受刑者からも「家族を大事にしてください」と便りと贈り物があった(当然家族は驚いた)。
海外からの相談も多かった。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スイス、ベルギー、オーストラリア、タイ、韓国など十カ国以上。催事や学術書、翻訳依頼などさまざまあった。特筆すべきは、大英博物館の姉妹施設であるイギリス自然史博物館からの依頼で、ある福島の子の作文は現在同館の常設展で飾られている。また、最後に言い添えると、筆者と作文の子どもたち(岩手、宮城)は国内のノンフィクション作品でもっとも栄誉ある第四十三回大宅壮一ノンフィクション賞も受賞した。
国内外でこれだけ反響があった理由は明白だ。未曾有の災害を生き抜き、自分の体験を刻んだ子どもたちの言葉に「力」があったからだ。
つなみ 5年後の子どもたちの作文集
発売日:2016年02月26日
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