軽井沢で創業した老舗温泉旅館を、国内外各地で高級旅館やリゾートを運営する「星野リゾート」へと成長させた。七月には、東京・大手町に塔の日本旅館「星のや東京」を開業。観光業界をけん引するリーダーの哲学に迫る。
司馬遼太郎さんの小説はほぼ読んできましたが、一番印象に残っているのが、中学生の頃に読んだ『燃えよ剣』です。歴史上、明治維新の功労者と言えば政府側の西郷隆盛たちで、時代の流れに逆らって人を斬りまくった新撰組は悪者になると思うんですが、この小説を読んだことで土方歳三がヒーローになった。私にとっての“幕末の主役”が逆転したんです。その後、日本の歴史を学んでいく過程で、「世の中、見る方向によって“正義”は変わるんだな」と実感しました。若い頃に、社会の価値観とは逆方向からの視点を持てたことによって、バランス感覚が身についたと感じています。
九一年に、この会社の社長となって以来、理論に基づいた「教科書通り」の経営をしてきました。課題を解決するための教科書を探すときは、書店に行くことが多いです。実際に本を手に取って目次をみて、ページをめくり、そこに解決策が書いてあるかどうかを見ます。流行りのビジネス書でもなく、経営者の自慢話でもなく、実証済みの理論であるかどうか――。良質のビジネス書は平台ではなく、ほこりをかぶりながら、棚に差されていることが多いんです(笑)。
『1分間エンパワーメント』は、私にとって一番、重要な教科書でした。今の星野リゾートの文化となっている「フラットな組織」という方向が間違っていないんだ、という自信を持たせてくれた本ですね。
この本を読んだ当時は、経営者となりトップダウンで改革を進めていくなかで、社員が命令されて動くことに疲れていた時期でした。とはいえ、組織のリーダーというのは、経営判断をしなくてはいけない。各施設の総支配人も最終決定をしなくてはならず、組織にとって「トップダウン」は必要です。
そのうえで、社員がモチベーションを高く維持して仕事をするために重要なのは「意思決定までに、どういう人間関係で議論ができるか」なのです。会社にまつわる情報、具体的には顧客満足度と収益に関するデータを公開し、メンバー全員が自由に発言できるフラットな関係性のチームを作る必要があるのです。そして最後はリーダーが決断を下し、責任を負う。フラットな議論ができる環境を作れば、顧客満足度と収益のバランスを自ら考えて動く社員が増えていきます。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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