逆の見方でいうと、収益に責任感を持ちすぎている経営者が多いのかもしれません。私はアイデアをどんどん出すけれども、本当にうまくいくかどうか、実行に際しての精査は現場に任せます。これは楽ですよ。現場に権限を与えないと、言ったとおりにしか動かない社員ばかりになり、経営者は正しいことしか言えなくなってしまう。こっちのほうがしんどいです(笑)。
「部下を信じて仕事を任せるのは難しくないですか」と聞かれますが、私は「顧客から褒められたときに人間は嬉しいし、モチベーションが上がる」という人間の性質を信じているだけなんです。人は本来、知識や意欲というパワーを持っていて、最高の仕事をしようとする。経営者は、そういう環境を提供すればいい。
ホテルという事業では、しがらみもあって社員が、厨房のシェフに「料理がまずい」とは言いにくい。お客様に美味しい食事を提供できれば喜んでくれるとわかっているのに、シェフに遠慮してできない。それが働く人のモチベーションを下げることになる。ところが顧客満足度を公開していると、レストランの満足度が低ければ、料理がまずいことが事実として共有できて、ストレスなく、顧客に喜んでもらうための行動がとれるんです。
日常のいろんな場面で、思い出すのは、内村鑑三さんの言葉です。軽井沢を度々訪れ、「星野温泉旅館」に宿泊していた内村さんは、二代目の社長だった祖父と交流があり、「成功の秘訣」という直筆の十か条を残してくれたんです。第十条、「人もし全世界を得るとも其霊魂を失はば何の益あらんや。人生の目的は金銭を得るに非ず。品性を完成するにあり」を読み返すとともに、『後世への最大遺物』という講演録の一節が強烈に胸に響きました。内村さんはこう語っています。「美しい地球、美しい国、楽しい社会に何かを遺したい」と。人が社会に残せるものとはいったいなにか。内村さんは「勇ましい高尚なる生涯」と表現しました。どう生きたか、ということ自体を残せる、という概念は衝撃でした。
内村さんの発想は、年を重ねるごとに、より心に響いてきます。これからも、経営者として「生き方」を見せていきたいと思っています。
お勧めの3冊
・『燃えよ剣』 (司馬遼太郎 著) 新潮文庫
・『1分間エンパワーメント 人と組織が生まれ変わる3つの秘訣』 (K・ブランチャード 著) ダイヤモンド社
・『後世への最大遺物・デンマルク国の話』 (内村鑑三 著) 岩波文庫
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