英国学生が語った言葉
――「歴史の断絶」とは、どういう意味ですか。
藤原 これは江藤淳さんが『閉された言語空間』で指摘したように、敗戦後の日本はアメリカによる占領政策として、憲法や教育基本法を押し付けられただけでなく、厳しい言論統制を受けました。日本人の精神性や魂を空洞化させるのが狙いでした。その結果、日本の歴史、なかでも明治期から昭和の戦前までの歴史が、戦後の歴史と断ち切られてしまったのです。
その端的な例が、戦争をどう考えるか、ということです。日本が近代を迎えた19世紀後半から20世紀前半、世界は帝国主義の時代で、日本も開国と同時にその荒波の中に放り込まれました。日本は否応なく西洋列強ひしめく国際社会のなか、日清・日露や太平洋戦争を戦いました。
私たちの先人である当時の日本人は、どんな思いで戦争を戦ったのかを考えてみてください。彼らは、日本の独立を守るために戦ったのです。西洋列強のように、植民地を拡大させるためでは決してありません。日本の独立自尊のために戦ったのです。
それを知らない限り、先達への尊敬の念は湧きません。そして先人を敬う気持ちなくしては、祖国への誇りは持てないのです。
20年以上前ですが、英国ケンブリッジ大で教えていた時に感心したことがありました。ある学生が、「自分の家では曾祖父(ひいじい)さんの代からの食卓をまだ使っているんだ」と言う。表面にナイフの傷が残っていたり、ガタがきたりと、機能性だけを考えれば新しい食卓の方が使いやすいはずなのに、古びた食卓について誇らしげに語ったんですね。アメリカ人と違い、イギリス人は自慢することを嫌う国民性です。その時、私は「イギリス人のなかには、先達を敬う気持ちが根付いているんだ」と素直に感銘したんです。
ところが、我が国はどうでしょう。日本は、曾祖父どころか、祖父や父の世代への尊敬の念さえ、国民の間に根付いていません。祖父や父の世代が築いた歴史が正しく伝わっていないからなのです。
だからこそ、今回の本では、日本の歴史について、私の考えるところを余すところなく書きました。現代を生きる日本人にとって、戦後に失われた歴史を取り戻すことで、初めて「日本」を取り戻すことができるからです。
日本人の誇り
発売日:2012年01月20日
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