――しかし現代は、「21世紀の帝国主義」とも称される新自由主義の時代になりました。
藤原 これもグローバルスタンダードと言われていますが、実情はアメリカの都合を押し付けられたものです。その結果、小泉時代から様々な「改革」が続きましたが、この間、現代日本は失業率が上昇し、自殺者が増え、政治も社会もモラルの低下が著しい。高度成長期のみならず、戦前や、もっと遡れば江戸時代のような、日本社会固有の豊かさが失われてしまったのです。
それは、日本が競争一辺倒になってしまったからです。日本という国、そして日本人の国民性は、この競争社会になじみません。これを打開するには表面的な対症療法だけでは間に合わない。根本的な体質改善をしなければならないのです。
本書でも書きましたが、日本人の美徳とは「個よりも公、金より徳、競争より和」を尊ぶものです。そのことを再認識するためにも、日本人の歴史をきちんと見つめなおすことは大事なのです。
私は、「家族愛、郷土愛、祖国愛」の3つが人間の基本だと考えています。当然です。この3つの愛なくして、人類愛は生まれません。家族を愛し、自らが生まれ育った土地を慈しみ、祖国を敬うことができて初めて、他の国の人々の想いを理解することができるのです。戦後の日本における最大の欠陥です。
ただ、ここ数年、30代以下の若い世代は、「祖国愛」を取り戻しつつあるように感じられます。これまでの自虐的で、欧米一辺倒の価値観から抜け出そうとしているのでしょう。その最初は素朴かもしれない祖国愛を、どのようにして自分自身の中に強く根付かせることができるかが、歴史の役割になるのです。そのために、本書を書いたとも言えるのです。
日本人をとり戻そう
――奇しくも3月の東日本大震災は、世界が日本をどう見ているのか、そして日本人自身の国民性を再認識させられました。
藤原 まさに大天災は、一瞬にして「家族愛、郷土愛、祖国愛」を脅(おびや)かしかねません。しかし、地震直後の大混乱の中でも被災地で暴動がおこることもなく、被災者たちが互いに助け合い、励ましあいながら過ごしている姿には、海外からも賞賛が寄せられましたね。武士道精神の「惻隠(そくいん)」が、日本人の中に息づいていたのです。
たとえば混乱の中でも、火事場泥棒的な悪事はほとんど起りませんでした。諸外国では、「泥棒」も「火事場泥棒」もともに同じ窃盗でしょうが、武士道精神では「火事場泥棒」は「泥棒」より断罪されてしかるべき卑劣な行為です。火事場泥棒は惻隠に欠けるからです。
原発事故の対応についても、決死の覚悟で放水活動に向かおうとした消防士のもとへ、「日本の救世主になって下さい」というメールが奥さんから届く。かつて日本人が抱いていた「公、徳、和」の精神を思い起こさせてくれました。
私もそういった数々の光景をテレビで見て、不遜ながら「日本人は、まだ日本人だった」という思いを強くしたものです。
日本人の誇り
発売日:2012年01月20日
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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