* *
ドイツの「日本無視」は本質的には今も続いている。
メルケルは二〇一五年三月、七年ぶりに訪日したが、先進七カ国(G7)の議長として、日本側との事前調整の必要からやって来たにすぎなかったし、日程も一泊二日、日本滞在時間も三〇時間足らずという強行軍だった。メルケルとしては、ドイツがG7の同胞である日本を軽視しているという見方がこれ以上広がることの弊害を意識した上で、訪日のアリバイをつくる目的があったと思われる。いわば訪日それ自体に意義があり、そのことが、席の温まる暇もないような訪問日程につながった。
ドイツは中国と一蓮托生の関係を構築しており、もはや簡単には後戻りできない。そしてわが国に対して、「独中蜜月」は今後も、不愉快な圧力として作用することだろう。
しかし、ここが肝心なところだが、だからといってわが国において「反独感情」が高まるような事態は避けねばならない。わが国が国民感情レベルで友好国の一つでも失えば、それは中国や韓国には得点になる。ドイツを称賛し、わが国をたたくのが中韓の歴史宣伝戦の眼目であり、そうした分断策によってわが国とドイツという欧州の大国の間にすきま風が吹けば、中韓は凱歌を上げる。
中韓は歴史問題で、「日本はドイツを見習え」と繰り返してきた。その結果、わが国には反独感情がじわりと浸透しつつあるが、それこそ中韓の思う壺であることを見抜く必要がある。
* *
メルケルは、大欧州の盟主となったドイツ初の女性宰相でありながら、その素顔はわが国では知られてこなかったという稀有な指導者である。わが国どころか、地元ドイツでさえ、メルケルの生い立ちや人となりはほとんど知られていないかもしれない。
こうしたメルケルの知られざる実像を描こうと試みたわけだが、メルケルを覆う神秘のベールを剥ぎとることはやはり難しいというのが偽らざる感想だ。誰かが言っていたが、「メルケルには誰もたどりつけない島がある」。
メルケルは自叙伝を出しておらず、事実関係の確認をめぐっては、公認とされたシュテファン・コーネリウス氏の伝記やゲルト・ラングート氏の研究などに依拠するところが少なくなかった。引用は本文中で適宜掲示したが、この場を借りて重ねて感謝したい。
二〇一六年一月
佐藤伸行
(「あとがきに代えて」より)
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。